Linkage 6 - 10
(6)
キッチンにはデパートの紙袋が置かれていた。
袋の中には大小さまざまなプラスチックトレイが山をなしており、赤飯に
ハンバーグやパスタ、はては中華総菜と、和洋中華入り乱れたメニューに
アキラはしばし呆然とした。
(デパートの地下に初めて行ったのかな……緒方さん)
普段から生活感とは縁遠い男だけに、デパートでの緒方の悪戦苦闘ぶりを
思い浮かべ、アキラは苦笑する。
見ているだけで胃もたれを起こしそうなメニューの中から、赤飯と中華総菜を
選んで少量ずつ皿に盛りつけ、冷蔵庫からエビアンのペットボトルを取り
出すと、アキラはテレビのあるリビングへと向かった。
ソファに浅く腰掛け、持ってきた料理に箸を付ける。
(7)
テレビのニュース番組をさしたる興味もなさそうな様子で見ていたアキラ
だったが、話題が中国の話に変わると箸を持つ手がぴくっと震えた。
ちょうどそこへ、シャワーを浴びてきた緒方がバスローブを身に纏い、
タオルで濡れた髪を拭きながら現れた。
アキラがまだ途中だった食事を片付けようとすると、それを遮るように
ひらひらと軽く手を振る。
「そう急がないでいい。まる一日何も食ってなかったんだろ、アキラ君。
まあゆっくり食べるんだな」
そう言うと緒方はテーブルに置かれたエビアンのボトルを手に取り、
一口飲んでからテレビに映し出された北京の映像をチラリと見た。
「そういえば先生は大丈夫なのか?お母さんも向こうに行ってるんだろう?」
思い出したようにアキラに尋ねる緒方を見つめながら、アキラは答える。
「ええ、体調はもういいみたいですよ。でも、心配だから当分は母も向こうで
一緒にいるつもりのようですけど」
アキラの父親、塔矢行洋は北京に渡った後、再び心筋梗塞で倒れ入院していた。
夫の体調を気遣って、アキラの母親も十日ほど前に北京へ旅立ち、塔矢家には
息子であるアキラが一人残ることになった。
だが、そのアキラは一週間前から緒方の住むこのマンションで生活している。
「それなら安心だな。先生おひとりで海外だなんてオレも心配だったんでね。
それに……」
緒方は皮肉っぽく笑うと、アキラのうなじを指で撫で上げながら言った。
「アキラ君ともこうして毎晩ゆっくり楽しめるわけだからな。フフフ」
(8)
「…あっ……おが…たさん……や………んっ!」
くっきりと浮き出したアキラの鎖骨をなぞるように緒方の舌が這うと、
アキラは堪らず身を捩った。
自然と跳ね上がるアキラの身体を軽く体重をかけて押さえ込みながら、
緒方は何事もなかったかのように愛撫を続行する。
緒方とこれまでに何度肌を重ねたか、アキラはもう覚えていない。
この部屋で、このベッドの上で、幾度となく緒方に愛撫され、その肉体を
受け入れてきた。
互いの肉体を繋いでいるのが愛情でないことは、アキラも十分承知している。
「さすがはアキラ君だ、よくわかっているじゃないか。いつもと違って、
こういうのも楽しいだろ?」
緒方のマンションで暮らすようになって一週間になるが、何故か緒方は
毎晩同じコースを辿ってアキラに前戯を施していた。
緒方がワンパターンのセックスしかできないような男でないことは、
アキラも十二分に承知している。
最初は緒方の意図が掴めなかったアキラだが、今は他でもないアキラの
肉体がその意図を察知し、意志に反して素直に反応してしまう。
「いい子だね、アキラ君」
そう言うと緒方は指と唇でアキラの肉体に刻み込まれた昨夜までの情交の
証を丹念に辿って行った。
薄桃色に染まったアキラの乳首を爪先で挟み、軽く引っ掻くと、緒方の髪の
中に差し入れられたアキラの手がぐっとその髪を掴む。
アキラの下半身は既に十分すぎるほどに熱くなり、先端を透明な液体で
濡らしながら雄々しくその存在を主張しているのに、緒方はまるで見向きも
しない。
(9)
「……どうして…こんな……ひぁッ……ァん…」
すでに緒方自身も十分に硬くなっており、そそり立ったペニスがバスローブ
を通して組み敷かれたアキラの太股に触れ、その熱を伝えているにも関わらず、
緒方は無関心を装うかのようにアキラの上半身に執拗な愛撫を繰り返すだけで
あった。
「どうして?アキラ君の身体はちゃんと答を知っているのに、どうしてはないだろ」
事実、緒方の言う通りであった。
既にアキラの身体は次に緒方がどこを愛撫してくるか知り尽くしており、
アキラが意識せずとも、身体は勝手にその箇所に全神経を集中させることが
できた。
全神経を集中させた箇所に、緒方の指が、唇が触れる度に、普段では
経験できないほどの快感の波がアキラに押し寄せてくる。
「次はどこか先回りして待てるなんて、オレの教え方がうまいのかな?
……それともアキラ君の天与の才なのかい?」
緒方は意地悪く笑うと、アキラの脇腹に指先で触れるか触れないか程度の
刺激を与えた。
その瞬間、緒方のバスローブの袖口がアキラの猛り狂ったペニスをかすめる。
「ふァッ……うッ!」
我慢の限界を超えたペニスの先端から白濁した液体が勢いよく溢れ出し、
アキラの腹と緒方のバスローブを濡らした。
緒方はわざと困ったような表情をしてアキラの濡れた先端を舌先でちろちろと
弄ぶ。
「まだ前哨戦も終わってないぞ。まあアキラ君は若いしすぐ回復するのかな?
クックック」
そう言いながら、緒方は精液で濡れたアキラの腹を丹念に舐めてやると、
上体を起こし、バスローブを手荒く脱ぎ捨てて床に放り投げた。
(10)
「おいおい、最後までしなくてもいいんだぜ。いい加減、顎が怠いんじゃ
ないか?」
緒方は微かに漏れる熱い吐息を押し殺すように、アキラの髪の中に差し
入れた手に力を込めると、苦笑しながら言った。
怒張した緒方のペニスがアキラの口腔内を占領してから既にかなりの時間が
経過している。
にもかかわらず、緒方のそれは当分達しそうもない様子であった。
アキラは苦しげな表情で、根元まで含み込んでいた緒方のペニスを
ゆっくりと引き抜くと、肩で息をしながら頭上にある緒方の顔を覗き込んだ。
緒方のペニスの先端とアキラの唇との間を透明な細い糸が繋ぐ。
「せっかくのご厚意は有り難いんだが、口だけで最後まではキツイだろ、
アキラ君」
そう言って、緒方はアキラの髪を軽くかき乱すと、もう片方の手でアキラの
顎を軽く持ち上げてその唇に指を這わせた。
「……でも……ボクは……」
言いかけて、アキラは口をつぐんだ。
できることなら緒方を自分の唇と舌で意のままに操り、果てさせてみたい……
緒方とベッドを共にする度に、アキラの中にそんな欲望が頭をもたげる。
いつも緒方のなすがままにされることへの、アキラなりのささやかな意趣返し
なのだろうが、明らかに緒方とアキラでは格が違う。
緒方を果てさせるどころか、逆に気を遣わせているのが現実であった。
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