少年王アキラ? 6 - 10


(6)
 少年王をひょいと横抱きにすると、その勢いでオガタンはくるりと一回転して
みせる。
 慣れたもので、ハマグリゴイシも上手い具合に着地点にスタンバイしていた。
「あのね、オガタン」
「まだなんかあるのか」
 些かうんざりしたように溜息を吐くが、それでもオガタンはこの愛くるしい少
年王の乱れたおかっぱやはだけられたパジャマの上着を正してやる。
 異星に流れ着いて15年。そんな風にして彼はこの星の若き主を見守ってきた
のだ。この星でのオガタンの歴史は、そのまま少年王との歴史でもあった。
「本選でね、ボクがレッドのハートを確実にゲットできるかどうか…見てて欲し
いんだ」
 ハマグリゴイシの長い首に抱き着いて、少年王は可愛らしく小首を傾げて見せ
る。いつものオネダリのポーズに、オガタンは悩殺されそうになった。
 だが、オガタンはある単語に過剰に反応してしまう。
「本選、だと……?」
「ウン」
 アキラ王はこっくりと頷き、『これは命令と受け取ってもらっても構わないよ』
なんて鬼畜なことを言い出した。


(7)
 しかし、他の者なら震え上がるような少年王の独裁ぶりも、もともと父王に仕
えていたオガタンにはあまり影響を与えない。ゆるくかぶりを振って、オガタン
は溜息を吐いた。
「キミは一体どんな神経をしてるんだ。人がどれほど今日という日をナイーブに
過ごしているか――」
 オガタンはそこで絶句すると、壁に表示される時間を確認し、意外なことに
「ぎゃっ」と短く叫んだ。
 ナイト兼少年王主治医兼愛玩具のオガタンにしては、あまりにも酷い叫び声だ。
少年王は自分の耳を疑ってしまった。
(なんだ、今の声は)
「しまった、オレとしたことが」
 少年王がどこから聞こえてきた声なのかと周囲に鋭い視線を張り巡らしている
うちに、オガタンはパソコンの前に素早く移動し、閉じていたウィンドウを全て
開いていく。ついでに隣のノートパソコンにも電源を入れた。
「クソ、もうすぐあっちは11時か。オレの票がどのくらいあるのか判らん……。
王子、キミもパソコンを持っていただろう。パスワード入力は出来るな?」
 オガタンの通常とは違う様子に好奇心を引き出されたのか、ハマグリゴイシか
ら飛び降りた少年王はオガタンの肩越しにパソコンの画面を覗き込む。
「パスワードはakiraだ」


(8)
 そんな簡単なパスワードでいいのか。言われるままにカチャカチャとパスワー
ドを入力しながら、オガタンは苛々と舌打ちする。
「そんな簡単なパスワードは駄目じゃないか。まぁ、キミの名を騙ってログイン
するような奴はここにはいないか」
 オガタンはしばらく逡巡したあと、おもむろに<<緒方精次@ヒカルの碁>>と入
力した。
「緒方精次? なんだそれは」
 少年王は見慣れない文字列を読み上げ、オガタンの顔を見上げる。眉間に皺を
寄せたオガタンは厳しい顔のまま顎で隣のデスクトップパソコンを指し示した。
「いいから早くそっちにも入力しなさい」
「さっきから、なんか偉そうだぞオガタン」
 今日は気分がいいから許してあげるけど、明日なら確実に刑執行ものだぞ。ア
キラ王は親指を噛んで悔しさを滲ませた。
「あなたが入力してくれないと、本選には付いていきませんよ」
「……わかった」
 少年王はキュートに唇を突き出して不満を表わしながら、同じように入力した。
「そうしたら、書き込むボタンを押して完了――だ」
「うん」
 一斉にボタンをピコンと押すと、とてつもなく大きな任務をやり遂げたような
達成感が2人に訪れた。


(9)
「よし、瀬戸際で2票入ったから多分オレは見事敗者復活を遂げたな。――集計
が楽しみだ」
 額に滲んだ汗を拭い、オガタンはメガネを取って少年王に微笑みかけた。
「フフ、キミも1票投じてくれたから、1位かもしれん」
 ハマグリゴイシの背に乗せるべく、今度は自発的にアキラ王をその腕に抱きあげ
ながら、オガタンは夢見るような表情でうっとりと呟く。
「フフ、アキラくんとレッドとオレによる本選……悪くない」
 不幸なことに、オガタンはトーナメントの方法をあまりよく知ってはいなかった。
「あ、反映されたみたいだ。……でも、23時2分になってる。これは無効になる
と思うけど」
 丁度ディスプレイがよく見える位置で抱き上げられていたアキラ王は、オガタン
が放り投げたメガネを弄りながら報告する。またしても「ぎゃっ」という醜い声が
聞こえてきたが、もう少年王も周りをきょろきょろ見渡したりはしなかった。
(オガタン…可哀相に…) 
「なに! …クソ、オレとしたことが時差を計算に入れてなかった……!」
 この宇宙船と2ちゃんねるでは、時間の流れる速さが4イゴイゴほど違う。例えば
宇宙船の中で1日過ごしている間に2ちゃんねる内では4日も過ぎているような状
態であるが、オガタンは焦るあまりにすっかりそのことを忘れていたのだ。
 アキラ王は彼の主治医の顔を見てみたかったが、先に精神的ダメージを受けるかも
しれないという防衛本能が働いた。


(10)
 唇を震わせて悶絶しているオガタンにかけてやる言葉を、少年王は思いつかなかった。
 手持ち無沙汰になったアキラ王は、何となくピンクのチェリーを握り締める。これ
をやると寝つきが格段に良くなるということを最近自覚し、この時間には大抵ピンク
のチェリーと戯れているのだ。
「――まあ、大丈夫だよオガタン。きっと敗者復活できるから」
「どうせなら1位通過がカッコイイじゃないか」
 慰めにもならないようなことを淡々と訴え、少年王はチェリーをエリンギ化させる
ことに集中しはじめた。
「それよりも……あ、レッドとのこと……よろしく頼んだぞ」
 レッドのことを考えると、それだけでチェリーがアスパラガスほどには成長してしまう。
「レッドと初めてのキッス。どんな味がするかなぁ……レッド…あ…あ…」
 オガタンの腕の中で、少年王はくいっと身体を撓らせた。足の指を全部丸めて、
両手でアスパラガスを握り締めている。
 ぎょっとした顔でその様子を見ていたオガタンの目の下がピクピクと震え出した。
「……この状態で他の男の名前を呼ぶか? 普通…」
「ああんレッドぉぉ……」
 しかし、少年王は自分の欲求にあくまでも忠実だった。
 感極まった少年王の甘い叫びと共に、チェリーの中央から放出されたものは見事に
彼の成長を見守ってきたオガタンの顔に命中した。



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