浴衣(分岐)青 6 - 10
(6)
「塔矢、後ろ向いて」
自分で動く前に、進藤の強引な腕が、僕の体を自由にする。
気がつけば、僕は柳の大木にしがみつき、進藤に腰を差し出していた。
進藤は僕の右足から下着を抜き、浴衣を腰まで捲り上げた。
「し、進藤……」
さすがにそれはどうかと思い、僕は湧き上がる不安から抗議の意を滲ませた声をあげたが、背中に進藤の体が包むように触れてくると、もう何も考えられなくなっていた。
わずかな重みと熱が嬉しくて……。
進藤の右手が、襟の合わせから忍び込み、僕の肌に熱を刻む。
進藤の左手が、僕の後孔の周囲を押すように揉んでいく。
右手が乳首を探し当て、左手の親指がゆっくりと中心を捉えたとき、僕は瘧にでもかかったように体を震わせていた。
「んんっ、ん……ん………」
汗のせいだろうか、進藤の親指はつぷりと音を立てて僕の肛門に沈んでいった。
「あっ! ぁぁ………」
弱々しい悲鳴は自分のものとは思えないほど甘かった。
じわりじわりと押し開いていく親指は、まだ経験の浅い僕には無視できない圧迫感だった。
乳首は進藤の指の腹で、撫でまわされ、捏ねくられ、押しつぶされた。
そうされることに快感はなかったが、進藤に玩弄されている事実が僕を高めていく。
耳元では、進藤の忙しない呼吸が獣じみて聞こえた。
そう……、獣だよ。
こんなところで、二人していやらしく喘いで………。
でも、それがまた僕を興奮させる。
いつのまにそうしていたのだろう。僕は進藤の親指に合わせてわずかに腰を揺らめかせていた。
それに鼓舞されたのか、進藤の指が僕の内部でぐるりと抉った。
「んあっ!」
僕は、思わず声をあげていた。
進藤の指が僕の前立腺を擦ったんだ。
「塔矢…、ここだったよね」
問いかけてきたが、答えなど求めていないのは、明白だった。
(7)
進藤は見つけた場所で、指を軽く震わせる。
そうして生まれる疼きは、いつ爆発してもおかしくない、危険を孕んでいる。
「はぁ、あっ……んっ……、うん…………」
もどかしい官能の渦の中で、僕は我知らず涙を零していた。
そんな僕の耳元で、進藤が低く囁いた。
「もっと…、腰を突き出してよ」
進藤らしからぬ、切羽詰った声。君がこんな卑猥な声を持っているなんて知らなかった。
そして、その声に従順に従う自分に、僕自身が驚く。
進藤が、僕から離れた。
遠ざかる体温に、生ぬるいはずの夜風が涼しく感じられた。
進藤は、僕の背中を掌で撫でた。少しの力がこめられたその動きに、柳の幹にしがみつく僕の腕はずずっと音を立てて、下がった。
後ろを振り返る勇気はなかった。
進藤はまだ衣服を乱していないのに、僕はなんて格好をしているのだろう。
誰に見られてもおかしくない野外で、……下半身を曝しているなんて。
進藤の親指が抜き取られた。
なくなった圧迫感にほっとしたのも事実ら、寂しく思ったのも事実だ。が、そこに新たな感触。
ぴちゃりと濡れた音がした。進藤が、舐めている?
「し、しん…き、汚い……や……はっ………」
それ以上、拒むことはできなかった。
進藤が、僕の後孔を舐め解いている。
指で広げながら、舌にたっぷりと唾液を乗せ、溶かしている。
「あん…ぁっ………ひっ、いっ……」
甘えるような、強請るような声を上げてしまった自分を、僕は許せないと思った。
だが、初めて知る心地良さだった。
そこからどろどろに解けてしまいそうだ。
十分柔らかくなった頃合を見計らい、進藤が改めて指を差し込んだ。
もう痛くはなかった。
すぐに二本に増やされ、唾液を送り込まれる。
三本まで増やされた指が、僕の中で行きつ戻りつを繰り返す頃、進藤が立ちあがったのが気配でわかった。
ファスナーが降りる音を、僕は背中で聞いた。
(8)
「ごめん。声、我慢して―――」
進藤の言葉に僕は子供のようにこくこくと頷いた。
「いくよ」
その声が終わると同時に、散々刺激され解けた場所に、弾力のあるものが宛がわれた。
ぐぐっと音を立てて押し込まれるものに、僕は我を忘れて逃げようとしていた。
だが、柳の大木にしがみつく僕に逃げ場なんてなかった。
ごつごつした幹に頬を押し付け、僕は耐えた。
限界まで広げられたときは、息が止まったような気がした。
「塔矢、きつい……」
進藤が唸っていたが、僕にはどうすることも出来なかった。ただ歯を食い縛る。
「力…抜いて……?」
語尾上がりのその一言。
進藤は、こんな場面で、こんな可愛い一言を聞かせる。
ふっと力が抜けた。
その瞬間を進藤は逃さなかった。
ズンと重い衝撃が、体の奥で響いた。
裸の下肢に進藤の熱が触れる。
「嬉しい……」
荒い呼吸を隠さずに、進藤はそんな言葉を聞かせる。
僕は熱く焼けた鉄杭を喉元まで飲み込んだような気がして、まだ満足に息がつけないでいるのに、進藤は……、本当に嬉しそうだ。
「おまえの中…、めちゃくちゃ熱い」
熱いのはおまえだ。
「長かった……、毎晩おまえの夢見たよ」
嘘をつけと思ったけれど、言葉にはしなかった。
嘘だとしても嬉しかったから。
(9)
「うわっ……くっ……」
進藤が、鼻にかかった声を聞かせる。
「やっダメ、塔矢……。おまえ……良過ぎ……」
かあっと羞恥で体が燃え上がる。
「動くよ……」
進藤はゆっくりと抜き差しを始めた。
僕は唇を噛み締め、その衝撃を受け止めた。
ぬちゅぬちゅと後ろで濡れた音がする。
「くっ、…ふっ……、んっ………」
僕は柳の幹につめを立て、短い呼吸を吐き出しながら、やがて進藤の熱に侵食されていた。
進藤の腰の動きが徐々に速まっていく。
激しくなる突きに、僕は酔っていく。
僕の腰を掴み、引き寄せたかと思うと突き放し、また最奥まで突きこむ。
グラインドする腰が、僕の内部のたまらなく感じるポイントを抉れば、僕はびくびくと体を震わせる。
「塔矢、熱いよ……とける……」
とけていくのは、僕のほうだよ。
透明な雫をあふれさせ、歓喜に脈打つ僕のペニスに進藤が指を絡める。
「いっしょに……」
僕のペニスはグチョグチョと卑猥な音を立てて、進藤の手の中で解放の瞬間を待つ。
進藤の剛直が、突き上げる角度で僕のなかを抉ったとき、僕は白濁を噴き上げていた。
それと同時に、内部で熱が弾けた。
しびれるような歓喜に、僕は膝から頽ていった。
ずるりと抜け落ちる、進藤の熱。
それを惜しむように、僕の内股をとろりと伝うのは、進藤が注ぎこんだ情熱だった。
(10)
「あら、鬼灯も頼んだかしら?」
赤い風鈴が涼しげに歌う軒先に、朝顔と鬼灯の鉢を並べながら、母が尋ねる。
「あ、俺のせいで帰りが遅くなったから、……お詫びです」
「進藤君、そんなこと気になさらなくても良かったのに」
僕は、恥ずかしさのあまり、二人の遣り取りを聞いていることができなかった。
「お母さん、汗をかいたから、お風呂使いますね」
「あら、食事の後じゃだめなの? お父様、あなたたちをお待ちかねなのよ」
「食べてきたばかりですし……汗を流すだけですから」
僕は母の返事を待たずに、廊下に進み出た。
そんな僕の背中に母の声が届く。
「じゃあ、進藤君も一緒に入ってくださる?」
「え?」
「さっき、お母様からお電話をいただいたの。今日はお泊めするといってしまったの。よろしいでしょ?」
おっとりしているように見えるが、母はあれで押しの強い人だ。
進藤が断れるはずがない。
「カラスの行水でお願いね」
僕は溜息をついた。
少し恥ずかしくて、少し嬉しくて……。
少し複雑な心境で、おってくる進藤の足音を聞いていた。
====了====
|