春の舟 6 - 10
(6)
この舟にはヒカルと佐為だけでなく、もう一人、男が乗っているではないか。
ヒカルは佐為の肩越しに男を見た。舟の後ろで男はこちらに背中を向けてうずくまっている。
「気になるのですか?」
佐為がヒカルのようすに気づいて囁いた。
「人がいるところでなんか、嫌だよ」
ヒカルが頬を上気させ眉を寄せながら言うと、佐為は不満そうに、
「せっかく帯を解いたのに」
「そういうことじゃないだろ!」
ヒカルが身を捩り、佐為の腕の中から逃げようともがくのを、佐為は簡単にヒカルの
動きを封じ込めてしまう。
佐為は面白そうにくすくすと笑い出し、乱れたままの着物に包まれたヒカルの体を、
器用に撫でまわした。
右腕でヒカルの体を胸に抱きこみ、左手でヒカルの内股を探る。
まだ淡い茂みを指に絡め、口では嫌だと言ってはいても立ち上がってきている中心の物を
手のひらで包んだ。
「……」
ヒカルは息をつめ、片膝を胸につけて身を縮めた。佐為の手の動きを封じようとする、
ささやかな抵抗だ。
「…だめだったら…」
ヒカルは息を乱しながら尚も佐為を拒んだ。
それが佐為の中の意地悪な心をひきだした。
佐為はヒカルの体を抱え上げ、自然下におりたヒカルの両足を自分の足の間に挟み、
体を伸ばすようにすると、ゆっくりと舟底にヒカルの体を押さえ込んだ。
(7)
体重を掛けてヒカルの体を押さえ込み、耳に唇を押し付けて囁く。
「ヒカル、言うことを聞いてもらいますよ」
そう言われてヒカルはビクリと体を震わせた。佐為が何をしようとしているか、
わかったからだ。
佐為はヒカルの耳に舌を尖らせて差し込むようにして舐めた。
「 ! ! …佐為、いやあ!」
ヒカルが暴れだした。首を振って佐為の舌から逃れようとする。
しかし、組み敷かれたままでは執拗に追ってくる佐為の舌から逃げられない。
ヒカルの体の中で一番感じやすいのが、耳だ。
ふたりが睦みあうようになったはじめのころ、佐為がやさしくヒカルを愛しながら耳に
触れて舐め続けると、それまで恥らいながらも佐為を受け入れていたヒカルが、
初めて激しく拒絶した。
感じすぎて変になりそうだと、ヒカルは泣いて嫌がった。
以来、佐為はヒカルの耳に軽く口付けることはあっても、感じさせようとして触れたことは
なかった。
一番弱い耳を責められて、ヒカルは悲鳴をあげた。
すぐに体中から汗が噴き出し、逃げようと暴れていた体から力が抜ける。
抱え上げられた時に指貫がずり落ち、剥き出しになった下半身の中心を佐為の手が
嬲ると、ヒカルはぽろぽろと涙をこぼした。
呼吸を乱して、それでも嫌だと言っていたが次第に言葉を紡ぐことが出来なくなっていく。
「…ぁ、あ!…ああっ!」
背中を反らせ、体を大きく震わせて佐為の手の中にヒカルは精を放ち、息を乱した。
(8)
いつもならここでヒカルを一度休ませるところだか、佐為はヒカルの耳を責め続けた。
佐為の腕をやっと掴んでいたヒカルの手が、力なく舟底に落ちる。
震えていた体が静かに眠ったようになると、ヒカルの浅く早かった呼吸が、急に深く遅く
なった。熱くなっていたヒカルの体温も同時に下ったのを感じ、そこでようやく佐為は
ヒカルの耳から唇を離した。
「ヒカル…」
呼びかけてもヒカルは答えなかった。それどころか、ピクリともしない。
佐為はヒカルから体を離した。ヒカルの汗に濡れた体を着物で包み、上体を起こすと、
自分も狩衣と指貫の帯を解いた。自分の単衣の前をはだけ、ヒカルの着物を脱がせて
裸にすると、再びヒカルと体を重ねる。汗に濡れたヒカルの体は冷たいままだ。
「…ヒカル」
もう一度呼びかけると、ヒカルはうっすらと目を開けた。だが、その瞳はさ迷い、焦点も
合っていない。
佐為は軽くヒカルの頬に唇に、何度も口付けた。やさしく包むように頬を撫で、肩を
抱いているとヒカルの体に熱が戻り、ヒカルの両腕がさ迷うように動いて緩く佐為の首に
絡められた。
ヒカルが大きくため息をつく。
「佐為のばか…」
軽く唇を重ねたその下で、ヒカルが消えそうな声で佐為を呪う。
言いながら、両足を開いて自分から佐為の腰に足を絡め、引き寄せた。
熱く重い佐為の中心がヒカルの内股に強く押し付けられ、体を揺らされた。
佐為はヒカルの涙を吸った後、ゆっくりと首から胸へと口付けて行った。
(9)
―――佐為の声が遠く、近く聞こえる。
今、自分を抱いているのは佐為のはずなのに、何故か遠くから聞こえてくる。
体がふわふわと空に浮いているような感じがする。
でも、背中に感じるのは堅い何かで、地上のどこかなのだろう。
ここは、どこ?
いつも佐為に抱かれる時は、暗くて少し寒い夜の部屋の中。
なのに、目を開けるとまわりは明るくて、霞に漂う薄紅の花まで見える。
―――これは、夢?
夢を見ているのかもしれない。
いつもより、すごく気持ちがいい。感じ過ぎて…。でも、もっと欲しい。
もっと、もっと強く。もっと酷くして、このまま死んでしまうまで。
…耳元で水の音がする。佐為はまだ耳を舐めているんだ!
嫌だと言ったのに、佐為は意地悪だ。嫌だ、嫌だ嫌だ。
「いや、…耳はいやだよ。ああ…佐為…」
白いもやが頭にかかっている。早くここから抜け出したい。
さっきまで佐為の体を感じて気持ちよかったのに、急に苦しくなってしまった。
「ヒカル。目を開けて」
佐為の声にヒカルは、はっとした。佐為が、真上から長い髪を垂らして自分を見ていた。
両手で強く掴まれ、舟底に押さえつけられた肩が痛い。
痺れるような感覚が薄れ、自分が今どんな格好をしているか分かってくると、ヒカルは
行為に上気した顔をさらに赤くした。
(10)
腰を抱え上げられ、大きく左右に開いた足の間を剥き出しにされ、爪先は床に着きそうだ。
佐為の堅く張り詰めた物が、ヒカルの体を深く重く貫いている。
夢の中で何度か達したと思ったのは、現実でもそうだったのだ。自分の内股も下腹も、
白く汚れて濡れている。
ヒカルは胸を大きく上下させ、喘いだ。
「舟べりを打つ水の音が、耳を舐めている音に聞こえるのですよ」
ヒカルが無意識に佐為を締めつけると、佐為は額に汗を滲ませ、眉を寄せて呻いた。
佐為はヒカルの肩を離し、ヒカルと深く繋がったままゆっくりと体を重ねた。
ヒカルの片方の踵を自分の肩に掛け、もう片方の足は脇腹へと遊ばせてやる。
その方がヒカルの体が楽なのだ。
ヒカルの中の佐為の物が、姿勢を変えたことで腸壁を強く押しつける場所が変わると、
ヒカルの表情が怯えるようなものから、恍惚感の混じったものに変わった。
「…んっ…」
佐為は震え出したヒカルの体をもう一度抱き直すと、いきなり下から強く突き上げた。
「あ!、ぁはう……!あんっ」
叫ぶような声を上げるヒカルをそのままに、何度もヒカルの中の奥を、深く体を沈めた
まま突いてやると、ヒカルは喉と背中をそらせて身を捩らせる。
「あぁんんっ!はぁっ!ああっ…あ!あ!!…んっ!…」
こんな時、普段は喘ぎ声を漏らすまいと口結んでいるヒカルだが、今日は意識を半分
飛ばしているせいか、声の出るまま堪えようともしない。
佐為はヒカルの腰を突き上げては揺らし、ヒカルを喘がせる。
ヒカルの頭を抱え、髪の生え際に息を吹きかけてやると、ヒカルは佐為の肩に顔を
押しつけてきた。
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