初摘み 6 - 10


(6)
 二人で過ごしていると、時間がたつのが早い。夜が更けるにつれ、落ち着かない気分になる。
ヒカルは、アキラが何かする度にビクビクした。自分がこんなにドキドキしているのに、
すました顔のアキラに腹が立つ。『やっぱ…慣れてんのかな…』ヒカルの目から見て、
アキラは同じ年とは思えないほど落ち着いている。もしかしたら、こういうことも経験済み
なのかもしれない。だから、自分のことを子供扱いするのだろうか…。
「進藤。」
考え事をしていたヒカルをアキラが呼んだ。
「な…なに?」
声が、ひっくり返った。アキラは、おたおたするヒカルを笑ってみている。
「お風呂が沸いたよ。入るだろ?」
「……うん…」
顔が火照る。アキラの言葉に深い意味はないというのに…。
「どうしたの?なんなら、一緒に入る?」
からかうようなアキラのそぶり。半分くらいは本気かもしれない。
 ヒカルは、慌てて風呂場に行った。


(7)
 こういうときって、どうすればいいんだろう。ヒカルは、頭から湯をかぶって考えた。
ヒカルの知っていることと言えば、保健体育の授業で得た乏しい知識と友人達の話の中で
聞きかじったモノだけだ。それすら、完全には理解できていない。
 スポンジにボディーソープを含ませて、ゴシゴシと腕や首筋を擦る。ふんわりといい香りが
鼻腔をくすぐる。
「あ…塔矢とおんなじ匂いだ……」
アキラに抱きしめられているような気がして、うっとりした。
――――――オレ……塔矢とするんだ……
カッと顔が熱くなる。顔だけではない。全身が熱い。
 熱を冷まそうと、何度も、水をかぶる。小さなくしゃみが出た。途端に脱衣所の方から、
声がかかった。
「どうしたんだ?」
「え…あ…なんでもない…!なんでもないよ…」
「…ならいいけど…着替えここにおいておくからね。」
 ドアの閉まる音がして、足音が遠ざかる。ヒカルは、手早く髪を洗うと、湯船の中に
飛び込んだ。


(8)
 「お風呂…ありがと…」
自室で待っていたアキラに、ヒカルがおずおずと声をかけてきた。新品のパジャマは少し
大きかったらしい。袖や裾の辺りがだぶついている。
「いい具合にゆだっているね。」
実際、ヒカルの身体からはまだ、湯気が立ち上っている。頬も、首筋もほんのりと薄紅色に
色づいて、そのまま食べてしまいたいくらいだ。
 だが、アキラの軽口に、ヒカルは何も言わなかった。ただ、黙って俯いている。アキラを
意識して何も言えないのだ。ヒカルの心臓の鼓動がきこえてきそうな気がした。
「そ…それじゃあ、ボクもお湯をもらってくるよ。」
ヒカルの気持ちが、自分にも感染したらしい。さっきまで、何ともなかったのに何だか
胸がドキドキしてきた。
 ヒカルの横をすり抜けて、浴室に行こうとした。その瞬間にヒカルの身体から、甘い香りが
漂ってきた。いつも自分が使っているシャンプーと石鹸の匂い。それなのに、まるで違う
香りのように感じた。
 無意識のうちにヒカルを抱きしめていた。
「と…う…や…」
自分を呼ぶ唇に軽く触れた。そして、ヒカルを解放した。気持ちを鎮めようと思った。
そうでないと、熱情のままヒカルを乱暴に扱ってしまいそうだ。

 頭から、何度も水をかぶった。自分がヒカルとまったく同じ行動をしているなどと、
思ってもいなかった。


(9)
 一人取り残されて、ヒカルは途方に暮れた。
「ひでえよ…オレ、なんにもわからねえのに…」
二つ並べてのべられた布団が、妙に生々しい。心細かった。
 寝てればいいのか、座っていればいいのか…。ヒカルは、布団の前で悩んでしまった。
アキラに声をかけられるまで、三十分以上もそこでぼんやりと突っ立っていたのだ。

 「塔矢…」
不覚にも涙がでてしまった。こんなことで、泣いてしまうなんて情けない。
「進藤?どうしたんだ?」
アキラが、頬に触れた。掌の熱が、ヒカルに伝わる。その身体からは、自分と同じ匂いがする。
それだけで、アキラと一つになれたような気がした。
 強くアキラにしがみついた。
「塔矢…!」
言葉が出てこなかった。本当は、自分もずっと待っていたような気がする。
 ヒカルは、初めて自分からキスを与えた。


(10)
 アキラは、ヒカルの背に手を回し、強く引き寄せた。少し、身体が冷えている。今、
自分の体温が高いから余計にそう感じる。
「冷えちゃったね…」
「……温めてくれるんだろ?」
上目遣いに見つめられて、理性が飛んだ。ヒカルの鼻と言わず頬と言わず、所かまわず
キスをした。
 ヒカルの身体から力が抜け、アキラに寄りかかってくる。ヒカルの身体を支えながら、
そっと布団の上に彼を横たえさせた。
「電気消してくれよ…」
ヒカルが眩しそうに、目を細めた。だが、アキラはかまわず、ヒカルの着ているものを
脱がし始めた。パジャマのボタンを外し、ズボンをずり下げた。
「や…やめてくれよ…」
ヒカルはアキラから身体を隠すように身を捩って、両腕で自分を抱きしめた。はだけた
胸元を懸命に合わせようとする。
 胎児のように身を縮めているヒカルのその手を強引に広げ、自分の真下に組み敷いた。
アキラが想像していたより、ヒカルはずっと華奢だった。抱きしめた感触からわかっては
いたが、それでもあらためて自分の目で確認すると、ちょっとした感動があった。
「あ…やだ…見るな…灯り消せったら…!」
ヒカルの身体が桜色に染まった。アキラの遠慮のない視線に、羞恥のあまり身悶えする。
「塔矢……!」
アキラに懇願するその唇を塞いだ。



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