光明の章 6 - 10


(6)
男はまず、行儀よく閉じられた蕾の周辺を責めた。
熱い舌を存分に這わせ、快感に戦慄くヒカルの反応を楽しんだ。
一つしかなかった痣は瞬く間にそこら中に拡がり、
花びらを散らしたようにヒカルの内腿を紅色に染めた。
男が腿の付け根を甘噛みすると、ヒカルはピクリと跳ねて背をのけぞらせる。
身を捩る度にヒカルの背中は地面に擦られ、傷つけられていく。
その痛みに気付かないほどの淫靡なうねりに感覚を支配されたヒカルの体は、
自分の意思とは裏腹に男の与える甘美な罠に酔いしれている。
それでも決して嬌声は上げるまいと、ヒカルは歯を食いしばって耐えていた。
男はヒカルのささやかな抵抗に気付き、言った。
「どうしたんだよ。さっきはあんなに悦んでたじゃねえか。
──可愛い声で鳴いてくれないとこっちも燃えないんだよなぁ」
男は右手の人差し指と中指を自分の唾液で濡らし、勢いよくヒカルの内部に差し入れた。
「う、」
野蛮な指の動きに耐え切れず、ヒカルは呻き声を発した。


(7)
挿入された2本の無骨な指がヒカルの内側を激しくかき混ぜる。
事を急ごうとする不規則な動きは苦痛しか与えてくれず、
ヒカルは湧き上がる不快な痛みに顔を歪めた。
「…クッ…」
ヒカルの額から脂汗が流れる。
痛みを少しでも和らげようと無意識に腰が浮く。
それがちょうど男の眼前に突き出された格好になり、
強請られていると勘違いした男はさらに指を根元まで押し込み
乱暴な抜き差しを繰り返すのだった。
ヒカルの感情など全く無視して続けられる行為。
モノのように扱われてみてヒカルは初めて思い知る。
アキラや越智が、いかに自分を尊重してくれていたかを。
自分に触れてきた彼らの指は一人よがりに終わることなく常に優しくヒカルを撫で、
多少の無理は強いても決してヒカルを置き去りにすることなどなかった。
アキラと関係した後、この世の不幸を全部背負ったかのような後悔の念に苛まれた。
越智に無理やり抱かれた夜、これ以上堕ちる先はないと泣きながら朝を待った。
その先に、まだこんな地獄が待ち構えていようとは。


(8)
「…あいつら、好き放題やってやがる」
加賀は忌々しげに舌打ちした。怒りのあまり、角材を握る手にも力が篭もる。
ヒカルを助けようと何度も物置小屋の影から出て行きかけた。
だが、相手は5人。多勢に無勢で返り討ちに合うのがオチだとなんとか思い留まった。
「助けに行ってボコられたらカッコわりィしな。元々勝てないケンカにゃ
首突っ込まない主義なんだよ、オレ様は」
どう冷静に考えてみても今の加賀に勝ち目はない。
見張りの2人は下っ端の雑魚だろうが、ヒカルを押さえつけている3人は
腕っ節の強いことで有名なチンピラどもだ。
「こんな棒っきれだけじゃまず無理だな。ちくしょう、他になんかねぇかな…」
小屋の後ろ側に回り込んだ加賀は、換気用のガラス窓に目を付けた。
もしかしたら鍵が開いているかもしれないと試しに手を掛けてみたが、
加賀の期待も空しく、その窓はしっかりと施錠されていた。
──チッ。ここはダメか。
諦めかけたその時。
前の道路を、一台のバイクが騒音を撒き散らしながら走って来るのが見えた。
見張りの2人は奥で行われている悪事が道路から見えないよう、さりげなく体で壁を作る。
──ラッキー。
加賀は近づいてくるバイクの音に合わせて、窓ガラスに石をぶつけた。
小気味良い音が響いたような気がしたが、どうやら巧い事騒音にかき消されたらしい。
誰も気付いていない事を目で確認すると、加賀は割れたガラスの隙間から手を差し込み、
慎重に鍵を回した。


(9)
鍵さえ開けてしまえば後はこっちのものとばかりに加賀は勢いをつけて窓枠に飛び乗った。
瞬間左の手のひらに鋭い痛みが走ったが、加賀は躊躇うことなく侵入し、
暗い内部を愛用の100円ライターで照らした。
最初に目に入ったのは、使い道のなさそうな木材の山だった。
その横には折りたたみ式のテーブルとパイプ椅子が3つ。
後ろの壁には十年以上も前のカレンダーが掛けられたまま放置されていた。
反対側を照らすとダンボール箱が2つ置いてあり、左側の方には巨大なネジが、
右側には用途不明の金具が無造作に詰め込まれていた。
備え付けの棚にあるのは作業用のヘルメットと埃をかぶったスプレー缶だけ。
その下には透明なゴミ袋に包まれた年代モノの石油ストーブがあった。
「さーて、どうしたもんかな」
すぐに妙案は浮かばず、加賀はポケットに手を入れ所持品を確認する。
ジーンズの前ポケットには将棋の駒が数個入っていた。
将棋部の後輩と対局し、負けた相手の王将をそのまま持ち帰ってきてしまったのだ。
「いっけね…酒が入るとついやっちまうんだよ」
胸ポケットにはタバコ、ジーンズの尻には財布。
「あれ、なんだこれ?」
皮ジャンのポケットに入っていたのは、カラオケボックスで飲んだカクテルの瓶だった。
もちろん中身などとっくに飲んでしまって空っぽの状態だ。
こんなものを何故大事にしまい込んでいたのだろう?
その理由は加賀自身にもよくわからない。それだけ酔っ払っていたという事だろうか。
「…これは使えるかもな……」
加賀は気持ちを落ち着かせるため、タバコに火を点けた。


(10)
「……あっ」
男の指が偶然ヒカルの弱い部分を捉えた。ヒカルは思わず甘い息を吐く。
「そうか。お前、ココがイイんだ?」
男は満足気に笑い、淫らに遊ばせていた指をゆっくりと引き抜いた。
そして2本から3本へと指を増やし再びヒカルの中に挿入すると、
長い愛撫によって少しづつ緩み始めた窪みを、さらに念入りに押し拡げた。
ヒカルの体内で執拗に蠢く指がある一点を掠める度、
止められない快感がつま先から小波のように押し寄せ、ヒカルの全身を震わせる。
「…んッ、ふぅ…んん」
より深い快感を得られるよう、ヒカルは前へと腰を進める。
理性はとっくに引き剥がされ、プライドも木端微塵に砕け散った。
後ろに与えられている強い刺激はそのまま前にも伝染し、
ヒカルのものが待ちかねたようにピクンと頭をもたげる。
男はそれを空いていた左手で荒々しく掴み、手早く上下に扱いた。
「あ、ああ…ッ」
ヒカルの両足がガクガクと痙攣し、投げ出された踵が何度も土を蹴る。
屈辱と陶酔が綯い交ぜになる刹那、
ヒカルは一瞬息を詰まらせ、やがて呆気なく果てた。
「…ようし、いい子だ…俺が何度でもイカせてやる…」
男は放たれたヒカルの精をすでに勃ち上がった己の分身に塗り付けると、
さんざん指で慣らした秘所にあてがい、一気に腰を入れた。



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