日記 6 - 10


(6)
久しぶりに緒方先生のマンションに遊びに行った。
塔矢も誘ったんだけど、来なかった。
まだ、先生のこと怒っているのかと思ったけど、
どうやら気まずいらしい。
先生に失礼なこといっぱいしたから、あわす顔がないんだってさ。
本当は来たいくせに……素直じゃねーな。
で、オレは一人で行ったんだけど、
やっぱり、水槽に引き寄せられてしまった。
別に熱帯魚が特別好きってわけじゃない。
奇麗だとは思うんだけどさ。
なんでかなー。魔法みたいに引きつけられるんだよ。
オレも塔矢のこと笑えない。
いつまでも、過去のことを引きずってる。
先生が紅茶を入れてくれた。
オレがその中にブランデーを入れてくれるよう要求すると、
先生は「しょうのない奴だ」と笑った。
オレが、あんまり「もっともっと」と言ったので、
先生に「いい加減にしろ」と小突かれた。
ブランデー味の紅茶に、オレは頭がポーとなった。
いい気分になったので、先生の唇にチュッとキスしてしまった。
先生は苦笑い。
その後、そのまま寝ちゃったらしい。
オレは大人になっても、酒を飲まない方がいいな。
誰彼かまわずキスしてまわったら大変だもんな。反省。
とりあえず、塔矢には黙っとこ。


(7)
オレにしては、珍しく長続きしてるじゃん。
オレって結構マメだったんだな。
そういや、塔矢も日記つけてるって言ってたな。
しかも、小学生の時から。
感心しちゃうね。
やっぱり、塔矢には言えないな。オレが日記つけてること。
だって、途中でやめちゃったら、みっともないじゃん。
でも、こうやって見るとオレって字がへただな―――――
ほんと、つくづくそう思うよ。
アイツにもしょっちゅう下手だ下手だと言われたもんな。
虎次郎と比べるなよな。
アイツが虎次郎のこと言う度、腹が立った。
今ならわかる。
あれ、やきもちだ。アイツを独り占めしたかったんだな。
馬鹿だな。


(8)
最近つきあいが悪いと和谷に文句言われた。
そーかなー。週末の研究会にも、森下先生の研究会でも会ってるじゃん。
そりゃ、塔矢といる時間の方が多いけど…。
オレ、塔矢が好きなんだもん。
あいつ、忙しいからなかなか時間合わないし
ちょっとでも時間があるときは、一緒にいたいんだよ。
でも、こんなこと和谷には言えないよ。
恋人が出来ると友情にヒビが入ることって、ホントにあるんだな。
テレビの中の出来事だと思っていた。
オレ、和谷のことも好きだから、反省しよう。
和谷や伊角さん達とわーわー言うのも楽しいもんな。


(9)
今日は塔矢のところに行く予定だったのに、
都合が悪くてダメになった。
塔矢に急に仕事が入ったのだ。
それをこの前会ったとき、聞かされてオレはがっかりした。
その時、相当へこんだ顔をしていたらしい。
塔矢がすまなさそうな顔で言った。
「ごめんよ。この埋め合わせは必ずするよ。」
ちがうんだよ。
別に謝って欲しいわけじゃないんだ。
だって、オレが塔矢の立場でもやっぱり仕事をとるし。
落ち込んだのは自分自身にだ。
「仕事がんばれよ。」と、どうして言えないんだろう。
自分の気持ちをうまく言えなくて、もどかしかった。
塔矢の顔を見れなくて、俯いた。
塔矢がオレに、素早く、チュッとキスをしてきた。
びっくりした。
塔矢の家でもオレの部屋でもないのに、喫茶店だぞ。
「大丈夫。誰も見てないよ。ボクは、見られても平気だし。」
顔が熱かった。
塔矢って本当に大胆な奴だ。


(10)
朝、目が覚めたときオレは泣いていた。
アイツの夢を見たせいだ。
今までだって、触れることができなかったのに
夢の中でもさわれなかった。けちだよな。
にこにこと、いつもの笑顔をオレに向けるだけで、
なあんにも、しゃべってくれなかった。
一緒にいるときは、ホントうるさいくらいだったのにさ。
やっぱりアイツはもういないんだ。
オレの未練がこんな夢を見せるんだ。
夢でもいいからっていつも思うけど……
やっぱ夢じゃ切ないよ。
人肌が恋しい。
塔矢がいればこんな夢見なかった。
早く帰って来いよ。



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