ピングー 6 - 10


(6)
股間同士をゆっくりと押し付けるように擦りあわされ、乳首を交互に嬲られるうちに、
体の奥底でむずがゆいような、もどかしいような感覚が掘り起こされてくる。
「んっく」
ヒカル自身のさっきまで怯えて委縮していたはずの中心も、今は布を持ち上げて存在を
主張し、緒方の股間が擦りあわされる度にさらに角度をきつくしている。
自分の喉を通る息が、熱を帯びているのがヒカルにも分かる。
「ずるいよ……」
「何が?」
この大人は、経験とその手管にものを言わせて、自分の領域にヒカルを引きずり込んだ
のだ。
セックスという名の言葉を使う、大人同士にしかわからない領域だ。
ここでは、経験の浅い子供のヒカルは右も左もわからない。
わからないままに、気付けば、緒方の手はヒカルのズボンを下ろし、陰茎を弄んでいて、
はじめて他人にそんな所をいじられる快楽と興奮にヒカルが我を忘れているうちに、
シャツを脱がされていた。
いつ脱がされたのかもわからない鮮やかな手並だった。
あらわになったヒカルの肌の上を、緒方の唇が赤い跡を残しながら移動していく。
最初はチクリチクリと、痛みにしか感じなかったそれが、やがて場所によってはくすぐったさ
に変わり、さらに痺れるような不思議な感覚に変わるまで、十分もかからなかった。
ヒカルの体の要所要所を一巡して、緒方の唇が再び左の乳首に戻ってきて、その尖端に
触れたとき、ヒカルは思わず切なげな声を上げていた。
「おまえ、こっちの才能もあるんじゃないか?」
笑いながら緒方は、ヒカルの陰茎を擦っていた手の動きを急激に早めた。
ヒカルは小さな呻き声を上げて、すぐに果ててしまった。


(7)
体の力が抜ける。
ベッドにぐったりと沈んだその肢体から、緒方はさらに下着や靴下、着ているもの
すべてをはぎ取ってしまう。
その緒方の様子を、されるがままになりながら、ヒカルはぼんやりと見ていた。突然
放り込まれたこの状況に、心が付いて来ていないのだ。
――いったい、自分は緒方のマンションに来て、こんなベッドの上で何をしているん
だろう。一時間前までは、酔っぱらった緒方の熱帯魚談義を聞き流しながら、寿司屋の
カウンターにいたのに。
緒方はそのヒカルを残して立ち上がると、バスの方に消えた。水が流れる音がする。
ヒカルの精液で汚れた手を洗っているのだろう。
水音が止まってすぐに、緒方はベッドサイドに戻ってきた。
手には何か薬のチューブのようなものを持っている。
緒方の手が、ヒカルの頬を軽く叩いた。
「寝るなよ、まだ終わりじゃないんだぜ」
ヒカルは、我知らず、不安げな表情で男を見上げていた。
実際、こんな馬鹿馬鹿しい悪ふざけは、これで終わりだと思っていたのだ。
「本当は女用なんだがな」
ヒカルの瞳の無言の訴えを無視して、男がチューブから無職透明のジェルを搾り出す。
ベッドに腰を落とし、寝転がったままのヒカルのを身を乗り出すようにして覗き込む。
「自分でやってみるか?」
男の手が、まるで迷子を導くかのように、ヒカルの手首を取り、そのまだ細い指先に
ジェルを乗せると、まだ少女のように柔らかいその太腿の奥へと誘導した。


(8)
自分の手をとんでもない場所に持っていかれて、ヒカルがあらためて抵抗する。
(なんで人前で、こんな自分でもいじったことのないような場所を、触れなきゃなら
 ないんだよ!)
だが、ヒカルの手はがっちりと指先まで、緒方の大きな手に握り込まれていて、振りほどく
ことが出来なかった。
緒方が望むままに、強引に手が動かされて、自分の指先が肛門に触れ、ジェルを塗りたくる
感触を、ヒカルは、どうしょうもない情けなさと共に感じていた。
ニュルリとした柔らかな触覚を、肛門の周りに感じる。
いやがって指をまげて抵抗したが、その手と指に添えられた緒方の腕の力には容赦がなく、
ただヒカルは自分の指がその場所に、ニチュニチュと透明な薬を塗り込む淫猥な音を聞いて
いることしか出来なかった。
ヒカルの手を逃げられないように押さえ込んだまま、緒方の硬い指の先が、ジェルのすべりに
任せて、温かい後腔の中にわずかにめり込むように沈んだ。
気持ち悪さに、ヒカルの口から思わず空気を飲み込むような悲鳴があがる。
「やめて! 先生っ!」
だが、緒方の指は堅いフタをこじ開けるようにして、ますます奥に進入してくる。
「やめてよ……」
ヒカルはあまりの恥ずかしさに身を縮めた。
その長い指の中ほどまで入れて中を散々に掻き回したあと、男はゆっくりとその指を
引き抜き、今度はヒカル自身の指に自分の指をそえるようにして、その羞恥にうごめく
入り口に押し当てた。
さすがに、緒方が何をしようとしているか分かったヒカルは、渾身の力をこめて、あいて
いる方の手で男の肩を突き飛ばそうと試みたが、まだ未成熟な子供である自分の非力さを
思い知らされるだけに終わった。
そのまま自分の指とヒカルの指を、緒方は強引に体内に押し込もうとする。
しかし、さすがに二本の指を一度にでは、さっきの時のように楽にはいかず、焦れた彼は
もう一度、ジェルのチューブに手を伸ばすと実に素早く、ヒカルの下に回された指先に厚く
ぬりたくった。
その効果もあってか。
今度はふたりの指は、じりじりとではあるが、中に進入した。


(9)
ヒカルは、例えようもない恥ずかしさと、これからおこる事への恐ろしさに、身を丸める
ようにして顔を背ける。
「や……やだ………」
時間をかけて、進入するうちに、ヒカルの指は三分の二がその中に埋まってしまった。
より指の長い緒方のそれは、まだ半分ほどしか収まりきってはいなかったが。
緒方の指が中で曲げられた。
腸壁を圧されて、ヒカルが気持ち悪さに眉を寄せる。
それを始まりに、緒方の指が何度もリズミカルに折り曲げられ、内壁をこするように
圧迫した。
すると、不思議なことに、その部分から痺れるような甘い感覚がヒカルの体に広がり
はじめたのだ。
繰り返されるうちに、その感覚はどんどん強くなってくる。
緒方の指の動きに押される形で、反対側の壁を圧迫しているヒカル自身の指先からも、
その甘さは広がってきた。
さきほど、緒方に前を擦られていたの時と同じように、喉を通る呼吸が熱くなっている
のがヒカル自身にも感じ取れた。
なんで、と思う間もなく、緒方の指がさらに奥に進入して、その場所に決定的な一撃を
与えた。
「ひゃん!」
突然、背筋を駆け抜けた刺激に、ベッドの上でヒカルの体が跳ねた。スプリングが軋む。
ヒカルが一度、反応を見せた後は、緒方は心得たように、その場所だけを繰り返し
刺激した。
緩急をつけ、延々と。
「あぁ……あ………あ………あ………」
時間がたつうち、知らずにヒカルは緒方の指の動きにあわせて、小さく喉を震わせて
いた。
それだけではない。男の指の動きがゆるくなれば、それでは足りないとばかりに、
中の自分の指を、内壁に刺激を与えるように蠢かせてさえいた。
酒が入っているわけでもないのに、ヒカルの頭は酔ったようにぼうっとしていた。
その時、急に波が引くように、ヒカルの体を襲っていた快楽の痺れがやんだ。
緒方が、ヒカルの指といっしょに自分の指もそこから引き抜いたのだ。


(10)
物足りなさに、ヒカルは無意識に、自分の指をもう一度そこに戻そうとした。
その手をそっと押しとどめて、男が言う。
「そんなに気に入ったのか。待ってろよ、もっといいものをやるぜ、進藤」
ヒカルに覆いかぶさって、その体を押さえつけていた緒方が身を起こす。
すばやくシャツを脱ぎ捨て、白のズボンを脱ぎ捨て、全裸になった。
その股間には、使い慣れているのであろう、色の濃い一物がそそりたっている。
緒方はもう一度、例のチューブを取ると、中身をたっぷりと出して、自分の熱くなって
いるそれに塗りこめた。
その光景に、さすがにヒカルも正気に返る。ボーッとされるがままになっている場合じゃ
ない。
このままでは……
「いやだ!」
ベッドから飛び降りようとした、ヒカルの腰を緒方が手早くつかまえて、再びベッドの
上に放り投げた。
「何をいまさら……。ここまできて放っておかれるのは、お前のこいつだって承知しない
 だろうよ」
緒方はきつく、立ち上がっているヒカルのモノをつかんだ。
痛みに近い刺激に、ヒカルはギュッと肩をすくめた。
口の端にうっすらと笑いの色をためて、緒方が、ヒカルの足を開かせて、その間に膝を
割り込ませる。
最後の抵抗とヒカルは起き上がろうとしたが、次の瞬間には緒方に両の膝を高く抱え上げ
られ、ヒカルはバランスを崩して後ろに倒れた。
「先生っ! 先生っ! ホントに、俺……、やめてよっっ!」
「なぁに、さっき入っていた指より少し太いぐらいのものさ」
大嘘だ。と、緒方の怒張したそれを見ながら、ヒカルは心の中で罵倒した。
このたちの悪い大人に抗おうと、ヒカルは足をバタバタと動かして悪あがきをする。
その暴れる少年の足を、自分の脇にしっかりと抱えて、緒方は何も言わずに、固く張り
つめた自分の武器を、ヒカルの中に押し入れた。



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