隙間 6 - 10
(6)
ヒカルは最初、聞かれた意味が判らなかった。快感に溺れかけていた脳は、
思考の判別を鈍らせた。が、更に強く股間を抑えつけられて、やっとの事で声を上げる。
「…なにも…、そんなの…わかんな…いって、お願い…はなしてぇ…」
ペニスを夢中で弄っていたヒカルにとってその言葉は真実だったが、緒方は満足せず、
ニヤニヤと嫌らしい笑いを張り付かせて問い詰めるようにしてきた。
「アキラ君のことか?最近仲が良いらしいじゃないか、え?どうなんだ」
「ち、ちが…!とうや…塔矢は…俺達は……そんな…ん…じゃな…」
そうだ、塔矢アキラはライバルだ。一生懸けて渡り合う、大事なライバルだと。
何故ここでその名が出てくるのか、ヒカルには不思議だった。
アキラとはこんな事をしたこともないし、話題にさえしたことがない。
「気付いてないのか?アキラ君はお前の事をいつも物欲しそうな目で見ているじゃないか」
「う、ウソだ…そんな…の…、ハァッ、と…うや、とうやは…ッ」
「ククク、どうだかな。アキラ君はどう思うかなぁ…進藤が俺とこんな事をしているなんて」
「や!やめて……やだ…」
ヒカルは怖くなった。アキラに知られたら、軽蔑されるどころじゃない、きっともう二度と顔を
会わせる事なんて出来ない。もう二度とあいつと打てない…?
「フフ、心配するな。言わないよ…俺がアキラ君に殺されてしまう…ハハハ」
楽しそうに笑う緒方を見上げながら、ヒカルは中途半端に堰き止められた快感に体を震わせる。
と、緒方の足の抑制が少し緩んでホッと息をつく。それでも緒方の追及は止まない。
「ククク、それじゃあ”sai”か?”sai”の事を考えていたんだろう?お前は」
その名前に、ヒカルは心臓を鷲掴みにされたように息を詰めた。
(7)
緒方とこんな関係に陥った原因が佐為の喪失にあるとは言え、ヒカルは佐為だけは
この行為に全くの無関係と考えていた。言わばヒカルは佐為を心の中の聖域として、
決して汚す事のない存在として大事に抱えてきた。それなのに、よりによってこんな時に
佐為を思い出してしまった。ヒカルはまるで佐為に行為を見られてしまったような、
途方もない罪悪感を感じて、泣き出してしまった。絶望的で緒方に懇願する。
「いわな…で…、その名前だけは…言わないで…!」
今だけは、お願い。そう言って涙で頬を濡らすヒカルを見ると、緒方は更に嬉しそうに声を立てて笑う。
そうしてからヒカルの股間を抑えつけていた足をどけると、またソファに戻ってしまった。
「まあいい、今日は勘弁してやるよ。さっさと済ませろ」
そう言われたヒカルは涙でグチャグチャになった顔を乱暴に腕で拭うと、またペニスを扱く動きを
再開した。今度こそ邪魔は入らなかった。ヒカルが射精するまで大した時間はかからなかった。
手を汚した自分の放ったザーメンを荒い息で呆けたように見つめるヒカルに、緒方は
「全部自分で舐めてきれいにしろよ」
と言い放つ。ヒカルはその命令におとなしく従い、時折眉をひそませながら丹念に舐め取った。
「美味いか?」
「ン…美味しくない…」
ヒカルの正直な言葉に、緒方は「そうか、自分のは不味いか」と笑いながらまだ酒を飲んでいる。
緒方のそんな揶揄には反応せずに、己のザーメンをきれいにしたヒカルは、緒方の次の言葉を
待ちわびている。これだけでは足りないのだ、後ろが疼いて仕方がない。
犬がお預けを食らったような顔をしてじっとしているヒカルに、緒方は小さな瓶を投げてよこした。
ヒカルはその小瓶をおそるおそる手にとって、未だソファから立とうとしない緒方を見上げる。
まだ何かさせようと言うのか?だんだんとヒカルの顔が不安に曇る。
(8)
「準備はしてきたんだろう?」
その問いかけにヒカルはコクンと頷いた。準備、とは腸洗浄の事だった。
緒方とのsexの前には必ず行う、ヒカルにとっては儀式のようなものだった。
最初は緒方に手伝って貰っていたが、最近では自宅で一人で出来るようになった。
そこまでヒカルの体はもう、緒方とのsexに慣れていた、いや、溺れきっていたと言うべきか。
「しかしそのままでは痛かろう、俺が突っ込む前に慣らしておけ」
その言葉に、ヒカルは我が耳を疑った。驚愕の表情のヒカルとは裏腹の感情のない緒方の声。
「聞こえなかったのか?自分で慣らせと言ったんだぞ、俺は」
小瓶の中身は薄いピンク色に染まったジェルだった。それを使えと言う。
ヒカルは見る間に顔を真っ赤にしながら、泣きそうな声で「できない」と呟いて首を振った。
「出来ないなら帰れ。もう二度と俺の前に姿を現すな」
ピシャリと緒方はヒカルを突き放す。「それだけは」とすがるような視線も、緒方を動かしはしない。
よこされた瓶を握り締めてかたかたと震えていたヒカルは、やがてそろりと足を広げた。
小瓶を開け手をジェルでベタベタにすると、そっと自分のアヌスに手を伸ばす。
「ちゃんと俺に見えるようにやれ。足を広げて、中まで見えるようにな」
ヒカルは黙って緒方の言われた通りに向き直り、息を呑んで一本だけ指をゆっくりと入れた。
「っ…はぁっ…ああっ…ふ、ううっ……」
人差し指を根元近くまで入れ終わると、ヒカルは大きく息をついた。
指で感じる自分の中の感触に戸惑うヒカルに、緒方はさも愉快そうに微笑を浮かべているだけだ。
(9)
指を出し入れするたびに、ピンクベージュに染まったヒカルの中が見え隠れする。
ジェルでべとべとになったそこには、ヒカルの端正な指が2本挿入されていた。
「あ、はぁ……は、ぁ…ぅん…、あっあっ…ぁ…」
吐息混じりの嬌声を弱弱しく上げながら、恍惚とした表情を浮かべるヒカル。
一度射精したペニスは再度立ちあがり、先走り汁でてらてらと光っていた。
「もういいぞ…テーブルに手をついて、尻を出せ」
待ち望んでいた言葉に、ヒカルはアヌスから自分の指をゆっくりと引き抜いた。
「あ、あっ…ぁん…」
それに感じてしまいながらも、緒方の言われた通りにテーブルに向かう。
低いテーブルの為、手をつくと四つん這いの格好になってしまう。
快感に震えるようにわずかに腰を揺らめかせて緒方を待つ。
何故か酒瓶を手に立ち上がった緒方が背後に立つと、ヒカルは喉を鳴らせた。
だが降って来た言葉は、ヒカルが期待したものではなかった。
「進藤、おねだりはどうした?」
「………えっ…?」
熱に浮かされたような頭でヒカルは言葉の意味を理解しきれない。
「言わないと分からんぞ、”オレのケツマンコにご慈悲をください”ってな」
首を動かして、背後に立つ緒方を見ると、相変わらず嫌らしい笑みを浮かべていたが、
目だけは笑っていなかった。それがヒカルには余計に怖い。
「い、言え…言えないよぉ…緒方さ……ゆるして、ゆるしてぇ………」
そんな事は言えない、そこまでプライドを捨てるなんて出来ない。恐怖と羞恥に声が震える。
途端、緒方は持っていた酒瓶をヒカルの肛門に突っ込んだ。
瓶に残っていた酒を腸内に注がれて、ヒカルは視界が一瞬真っ赤に焼けた気がした。
「う、あああああぁぁ―――――――!!!」
(10)
注がれた量は大した事はなかったが、ヒカルに衝撃を与えるには充分だった。
下腹部が熱い、溶けてしまいそうだった。しかし形容できぬエクスタシーも同時に感じて、
ヒカルは混乱した。ペニスはぱんぱんに張り詰めて、解放の時を待ちながら先走りの蜜を垂らす。
泣きじゃくりながら息を啜り、半狂乱で悲鳴を上げるように訴えた。
「い…やっ、いやぁ!しん、じゃうよぉ…お、がた…さん、た、すけて…死んじゃう!」
肛門から注がれた液体が少しづつ垂れてきて、ヒカルの内股を濡らす。
それにすら感じてしまう。泣いて懇願するヒカルに緒方は楽しそうに言い放つ。
「言わなければずっとこのままだぞ。欲しかったらおねだりしろ、ちゃんとな」
「ウッ…言う、い…うか、あぁ、あっ…ぁは、ぁ……」
背後から緒方が覆い被さってくる。ヒカルの耳朶を噛むように甘く囁いた。
「ほら、言えよ進藤・・・そうすればお前の一番欲しいものをやる」
ぶるりとヒカルが大きく震える。もはやヒカルに理性は残っていなかった。
あるのは、目の前にある快感にすがりつくことだけ。
虚ろな目からは涙が溢れて頬を濡らし、口からはだらしなく涎が垂れている。
普段の明るく活発なヒカルからは想像もできない、艶めかしい表情。
調教した緒方でさえも、息を飲むほどのヒカルの媚態。
「はっ…お、おれの…ケツマ…こに…ご、じひ、を…くら…い…お、ねがっ……」
呂律の回らない舌で必死にお願いする。もう気が狂いそうだった。
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