痴漢電車 お持ち帰り編 6 - 10
(6)
浴室にヒカルを送り出して、その間に自分はタンスの中を物色する。ヒカルが着られそうな
新品のパジャマを引っ張り出した。
「………でも、コレ、女物なんだよね……お母さん結構ウカツだからな………」
アキラはこういうことはあまり気にしないが、ヒカルはどうだろうか。怒って泣かれたら、
どうしようか………。かと、いって他にめぼしいものはない。仕方がない。コレでガマンしてもらおう。
それから………そうだ……下着はどうしようか。
「ボクのでいいかな。」
真っ新の下着をとりだして、パジャマの上にのせた。
アキラは脱衣所に着替えを持って入っていった。ヒカルは既に風呂場に入っていた。
磨りガラスを一枚隔てた向こうに、一糸纏わぬ姿のヒカルがいる…………。
「進藤、背中流してあげる!」と、叫びながら、乱入したい………イヤ、ガマン。ガマンだ。
アキラが理性を総動員して、耐えていると、
ぴしゃん――――――――――
と、背後で水の跳ねる音が聞こえた。
その音だけで、欲望をかき立てられた。胸の奥がもやもやしている。
今、ヒカルはどんな格好で湯船に浸かっているのだろうか…………見たい…覗きたい…
無意識のうちにガラス戸に手を掛けかけていた。慌てて手を引っ込めた。
『とりあえず、今夜一晩だけでも約束を守らないと――』
………アキラは大きく深呼吸をした。
(7)
気持ちを落ち着け、床に置かれた脱衣籠に目をやった。その中には、セーラー服と下着が
入っていた。
アキラはそれを取り上げ、洗濯機の中に放り込もうとした。が、ふと手を止めて、手の中の
セーラー服をしげしげと眺めた。
「コレって、もう使えないよね………弁償しないといけないなあ………」
だとしたら、アキラが貰ってかまわないワケである。
アキラは、それをきれいにたたみ直して、大事そうに腕に抱えた。ヒカルの汗や涙――その他
諸々の体液が染みついたセーラー服である。洗うなんてもったいない。
「今夜はコレを抱いて寝て、進藤の夢を見よう。」
アキラは着替えを脱衣籠の中に入れ、浴室に向かって「着替え置いておくよ」と、一言だけ
声を掛けるとそのまま出て行った。
(8)
ヒカルは、今晩は居間で寝てもらおう。自分の部屋とは離れているし、それなら何とか
耐えられそうだ。
「レアもののアイテムも手に入ったし………」
アキラはセーラー服に頬ずりをした。
アキラが居間で布団を延べているとき、ヒカルが部屋に入ってきた。
「あの……塔矢……ありがと…………」
振り向いて「いいんだよ」と、言いかけて、そのまま言葉が出なくなってしまった。
濡れた髪……上気した頬……柔らかい石鹸の香……少し大きめのパジャマからちょこんと
覗く指先……ヒカルは、小首を傾げて愛らしい瞳で、アキラを見つめている。
ちょっと待て!コンボ!コンボ!連続コンボ!自分のライフゲージ(この場合は理性か?)は
もう一ポイントぐらいしか残っていない。
「塔矢?」
ヒカルがアキラの顔を覗き込んだ。可愛い顔が目の前に………!ああ………もう、ダメだ。
最後のライフポイントが消えてしまった…………………………。
アキラはヒカルを抱き寄せて、そのまま布団に引き倒した。
(9)
ヒカルは、最初何が起こったのか理解できず、目をぱちくりさせていた。だが、アキラの
唇が自分に軽く触れた時になって、漸く状況を把握した。
「や、やだ!離せよ!」
ヒカルは自分の上に被さっているアキラを押しのけようとした。
しかし、アキラは強くヒカルを抱きしめ、離してくれない。
「やだよ!ウソつき!なんにもしないって言ったじゃん!」
ヒカルが半泣き声で、アキラの不実さを詰る。アキラは困ったように微笑んだ。
「ゴメンよ………そのつもりだったんだけど………」
そうして、もう一度ヒカルの唇を塞いだ。
ヒカルはキスをされたまま、まだ、アキラに悪態を吐いていた。
―――――バカ!ウソつき!変態!何もしないって言ったのに………信じたのに………
ウソつき!ウソつき!ウソつき!
アキラを責め続けるヒカルの舌を、当の本人に優しく絡め取られた。
「んん………!」
パジャマの中に進入した手が、肋骨を数えるように撫でていく。ヒカルは身体を仰け反らせた。
アキラがヒカルの首筋に顔を埋め、ゆっくりと味わうように舐め上げた。
「あ……!あぁん……」
「………進藤……いい匂いがする……石鹸の匂いと…進藤の肌の匂い……」
少しずつパジャマがずり上がっていく。ヒカルは慌てて、裾を引っ張った。
「うぅ―――ヤダったら!もうやめてよ………約束したじゃんか……」
「ゴメン……」
ヒカルの抗議にアキラは「ゴメン」としか返さない。
「ゴメンじゃなくて………やめてったら…!」
アキラの指がヒカルの胸を愛撫する。そのたびヒカルは「ああん」と、切なげな声を
上げた。そうやって、ヒカルの抵抗を封じながら、空いている方の手で器用にパジャマのボタンを
はずしていく。熱い息が首筋にかかる。ヒカルは思わず「ア…」と小さく溜息を吐いた。
アキラの熱がヒカルに伝染していくようだ。それなのに、ヒカルの身体はアキラの腕の中で
震えていた。
(10)
「お願いだからもうやめてよ………」
ヒカルはか細い声で訴えた。泣きたくないのに、もう涙が頬を伝っている。
だって、いつの間にかパジャマははだけられ、肩も胸も剥き出しになっている。ズボンだって、
太腿あたりまでずり下げられてしまっていた。
「………なぁ……こういうことは好きな相手とやるもんだろぉ………」
ヒカルには、アキラが手近な自分で性欲を処理しようとしているように見えたのだ。
一度だけならまだガマンも出来る(本当は泣きたいくらいだけど)が、二度はもうイヤだ。
ヒカルはアキラに少しばかり好意を持っていたので、余計に悲しかった。そして、こんなことで
自分たちの関係が壊れてしまうことを恐れていた。
ヒカルが涙混じりにそう言ったとき、アキラは心底驚いたような顔をした。
「………だから…今、してるんじゃないか……」
「?」
「進藤が好きなんだよ……ずっと前から……」
今度はヒカルの方がビックリした。あまりに驚いたので、涙が止まってしまった。
「………好き?オレのことが?」
アキラがコクリと頷いた。
頭の中で「好き」という言葉がぐるぐる回っている。その言葉の意味を理解して、ヒカルは
真っ赤になってしまった。
「好き……大好きだよ……」
耳元でそう囁かれて、ヒカルの身体から力が抜けた。
アキラを押しのけようとしていた腕は、いつの間にか彼のさらさらと流れる髪の中に
差し入れられていた。
「ホント?ホントにオレのこと好き?」
「うん……好き…」
こんな事を言われたのは初めてだ。頭がポーッとなって、もう何も考えられなくなってしまった。
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