天涯硝子 6 - 10


(6)
下腹に流れるそれを冴木は指ですくい、ヒカルの後ろの門を濡らした。
ヒカルのその入り口を指をそろえて撫でさすった後、指をゆっくりとヒカルの熱くなった身体の中に侵入させる。
指を入れられ、蠢かされる感覚にヒカルは首を振った。
「……んんっ」
「進藤のここ、…柔らかいな」
ヒカルの胸に口付けていた冴木が、少し笑いを含んだ声で言う。
すぐに指の数を増やし、今度はより深く中に押し込み、指を曲げて中を抉るようにしたとたん、
ヒカルが身体を仰け反らせ悲鳴を上げた。
「…ン、アァッ!」
「…?!」
どうやらヒカルの一番イイところに、いきなり触れてしまったらしい。
「…ここが、イイのか?」
冴木がヒカルの耳元に口を寄せて聞いてきた。
ヒカルは自分が上げてしまった声と、冴木の指の動きに湧き立った身体の中に隠されていた感覚に驚いて、黙り込んでしまった。
「ここか?」
冴木が同じ場所を強くこする。
指先で突くようにするとヒカルの後ろの門は強く冴木の指をしめつけ、
ヒカルは強烈な快感に火のように包まれて、さらに大きな悲鳴を上げた。
「…ヒ、アアァッ!」
ヒカルのそこは、冴木の指を飲込み吸いつくようにしているというのに、
ヒカル自身はその焼かれるような快感から逃れようと、もがき始めた。
「…ああっ…ああ!はぁっ…いや!いやだっ…!」
身体をびくつかせ冴木の腕に爪を立て、冴木を身体から押し退けようとする。
ヒカルの小さな身体の、そんな抵抗を封じ込めることなど冴木には簡単なことだった。
冴木は体重を掛け、激しくよがり狂うヒカルの身体を押さえ込むと、
指を三本に増やし、さらにヒカルの中の薄い粘膜を突き破ろうとするように指を立て、
その場所をきつく責め立てた。
冴木の腹の下で、ヒカルの歳の割りにはまだ幼い性器が痛みを伴いながら再び固く張り詰め、
びくびくと震えだす。
「ああっ!あぁ!離してぇ…いやあぁぁぁ!!」
ヒカルが頭を打ち振るい、喘ぎながら何度も高い声で訴えた。

ヒカルは背を大きく反らし、息を弾ませながら重く痺れるような快感の余韻の中にいた。
やっと冴木から解放され、ヒカルは溢れてしまった涙をぬぐった。
爪先にも指先にも蜜の中を泳ぐような甘い感覚が残っていて、
涙を拭くために手を顔に持ってくるのがやっとだった。
冴木は指を引抜き、胸を大きく上下させているヒカルの身体に、
生きていることを確かめるように指をすべらせた。
そして何もヒカルに声を掛けないまま、ヒカルの腰を抱え上げ、
膝に滑り上げるようにして自分のモノを押し当て、昂ぶった身体をヒカルの中に沈めていった。
まだ、冴木の指が身体の中にあるような感覚が残っている。
それを打ち消すようにヒカルの中に冴木自身が入ってくる。
ヒカルが身を捩らせ、甘い声をあげて強い快感から逃れようとするのを、
力でねじ伏せてきた冴木に、ヒカルは今までにない恐さを感じていた。
やさしくするとは言いはしたものの、もう冴木はそうできないだろう。
体格の差を頭の隅において、やさしく扱おうとする理性などとうになくし、
獣ののような荒々しさでヒカルを責め立てて来るだろう。
その証拠に指でいかされ、息を乱したまま快感の余韻に浸るヒカルを少しも休ませずに、今また貫いてきている。

落とし込まれる冴木の熱い塊にヒカルが身を震わせている。
異物が侵入してくる圧迫感に腹が破れそうだろう。


(7)
冴木は体をつなげたままヒカルを横向きに寝かせ、ヒカルの片足を抱くようにして持ち上げ、もう片方の足を股下にくぐらせた。
そして、自分の両足でヒカルの腹を挟むようにすると、ヒカルの中をゆっくり行き来し始める。
指をもぐり込ませていた時とは違い、ヒカルの中は狭くきつい。
ヒカルのその入り口は粘液と精液とで濡れてはいるが、冴木の行為を容易にはしてくれなかった。
ヒカルの足の間に腰を着け、最奥まで達するように何度も自分の昂ぶりを落とし込む。
その昂ぶりは、ヒカルの内側の侵入を拒もうとする動きに擦りあげられた。
そうかと思うと、ねじ込んだ腰を引くと反対に吸いつくようにまとわりついてくる。
冴木はその感覚を楽しむように、じっくりとヒカルを責め立てた。
ヒカルの中が次第に濡れそぼってくると、冴木は待っていたとばかりに動きを早め、片手をヒカルのモノに添えて擦り上げる。
「…あ、はぁ…く……ん…」
切なげな声を漏らしていたヒカルの口からは、小さな悲鳴のような声があがり始めた。
呼吸が短く吐くようになり、ついには息をつめ、足を引きつらせて冴木の手の中に今日何度目かの精を放った。
冴木のモノを飲み込んだヒカルの下の口では、ぬちぬちと音が大きく立ち始め、
果てなど知らぬかのように冴木はヒカルを責め続ける。
無意識の内に体の下から逃げ出そうとするヒカルの肩を、冴木は乱暴に掴み、
座りやすく、やや角度のついた座席に落ち込ませるように押さえつけた。
そうしてリズムをつけて腰を打ちつけて来るかと思えば、不規則に抜き差しされ、
ヒカルは呼吸のタイミングを乱されていた。
腹の中に抜き差ししてくる冴木のモノは、最早、ヒカルを苦しめるだけだった。

大きく体を震わせて冴木が呻いた。
啜り泣くヒカルの中を断続的に冴木の精が濡らしていく。じわりと熱いものが自分の中に広がって行くのをヒカルは感じていた。


「……」
息を乱しながら冴木はヒカルの体から一度離れ、再び体重をかけて覆い被さってきた。
ヒカルの零した涙を舐め取ると、噛みつくように乱暴な口付けをしてくる。
荒々しい貪るような口付けを終え、冴木はヒカルの頬に口付け、あごを甘噛みし、首筋を舐めた。
ヒカルは冴木を抱こうと腕を動かしたが、その動きも冴木に封じられしまった。
冴木は首筋を甘く噛んだあと、鎖骨を噛み、ヒカルの薄い胸に辿り着き、
興奮して硬くなった小さな乳首を、舌で押しつぶすようにして舐めた。
面白いようにヒカルの体が反応する。
「…ぅんっ、……」
面白いようにヒカルの身体が反応する。
唇ではさみ、舌先で転がし歯をこすりつける。
暗闇で見えはしないが、ヒカルの乳首は充血しているだろう。
冴木はしばらくヒカルの胸の上で遊び、今度は少しづつ腹へと身体をずらしていった。


(8)

脇腹を、尖らせた舌先で強く押されるようにして舐められる。
反応すまいと思っても身体はピクンと跳ねた。
胸に這ってきた冴木の手が、小さな突起を見つけ、かすめるように弄び始める。
何だかまた下腹が疼いてきそうだ。
やさしく扱われ、うっとりとした気分でいたヒカルは、次の瞬間、息を飲んだ。
臍の辺りを舐めていた冴木が急に歯を立てて、噛みついて来たからだ。
「!!…痛ぁ!…冴木さん!」
獣が捕らえた獲物のはらわたを、まずは喰らおうとするように冴木はきつく噛みついた。
きりきりと腹の薄い肉に歯を立て、食い千切ろうとせんばかりだ。
「痛い!…つぅ…」
ヒカルは身体をこわばらせ、冴木の頭を引き離そうと手を掛けると、今度はその手の甲を噛まれた。
「冴木さん!」
ヒカルのかすれた声に冴木は少し間をおいてから、驚いて萎えてしまったヒカル自身を口に含んだ。
「……」
冴木の舌が包むように、ゆっくりと動く。
下腹は再び熱くなるのに、背筋は冷たくなった。
−−また、噛みつかれるかもしれない。
身体をずり上げ、両手をさ迷わせる。何かに捕まって冴木から逃げ出したかった。
何かを掴もうと延ばした手だったが、頭の上には閉ざされたかたいドアがあり、ヒカルは腕を打ちつけた。
座席の背もたれもヒカル達を囲う、高く冷たい壁のようだ。
寝かされているシートは少し身体をずらすと肩が落ち、そのまま頭も落ちそうになる。
ヒカルは目を開けてみた。何も見えないと思っていたのに、何か薄青いものが目の隅に映った。
しかし、それ以外はやはり何も見えない。何も無いようにさえ思える。
自分に触れている冴木の身体だけが、今の自分を救うもののように感じた。
もう何をされてもいいから、自分を抱いていて欲しいと思った。
噛まれるのではないかと心細かったが、冴木はずっとやさしくヒカルを扱っていた。
しばらくすると、ヒカルのモノを音を立てて舐めていた冴木がすっとヒカルから離れた。
離れたふたりの身体のすき間に冷えた空気が流れこんで、一瞬ヒカルはヒヤリとする。
…途中で放り出されて苦しい。
足に冴木が触れたかと思うと、腰を掴まれ乱暴にうつぶせにされると、片足が床に落ちてしまった。
ヒカルが足を延ばして腰を上げると、冴木の手が双丘をつかみ、親指でその入り口を押し広げた。
間髪入れずに冴木の熱い塊が押しつけられ、そのままグイッと刺し貫かれた。
「ああっ!!」
ヒカルの中に残っていた精液と入り口を濡らす唾液に助けられ、冴木は今まで以上に楽にヒカルの中を行き来できた。
前後に揺さぶられ、座席に顔をこすりつけてヒカルが呻く。
冴木が身体を折るようにして、自分の腹をヒカルの腰の上に乗せて来た。
手をヒカルの股間に延ばし、唾液に濡れたヒカル自身を掴むと激しくこすり上げた。
それはヒカルの中を打ちつけるリズムとは、また別のものだった。
ヒカルを前後に揺さぶると車体も揺れるのか、反動で返るヒカルの腰は、
冴木のモノで打ち砕かれるのではないかと思うほど、深く抉られた。
ヒカルが何事かを言う。しかし冴木は聞き取れなかった。
「…まだだ。…進藤…まだ…」
そうつぶやく冴木の声も、ヒカルに届いているのかわからない。
「…はぁっ、…はぁ…はぁっ…」
荒々しい息遣いに言葉はかすれて消えてしまう。
崩れるようにヒカルは打ち臥し、続いて冴木もヒカルの上に倒れこんだ。
水面を打つようなピシャピシャという音が消え、ヒカルの指がカリカリとドアを引っ掻く音が小さく響いた


(9)
駅のホームに降り、人の流れに合わせて階段を下りる。
改札口を出る前に、ヒカルは胸の高鳴りを抑えようと深呼吸をした。
人波が過ぎ、構内を見渡せるようになると改札の外に冴木の姿を見つけた。
冴木と会うのは水曜の朝、棋院会館の玄関で別れて以来、三日振りだ。
「…冴木さん!」
冴木が片手を上げて応える。
ヒカルはまっすぐに冴木に駆け寄り、子供がするようにその胸に抱きついた。
「…進藤」
顔を覗き込まれるとヒカルは照れくさそうに笑い、2、3歩後退ると冴木と視線を合わせた。
ヒカルが座席の上で俯せになって果てたあと、冴木はすくい上げるようにしてヒカルを抱きかかえ、膝の上に座らせた。
後しろからヒカルを抱きいたまま、身体を傾けてルームライトを点けると、
「…何だ、ライトつくんだ…」
明るくなった車内に瞳を巡らせ、ヒカルはつぶやいた。
−−あの夜の、あの場所でのことで覚えているのはここまでだ。
その後、冴木と何を話したのかも、どうやって服を着たのかも覚えていない。
走る車の振動に目を開けると、助手席に横になっている自分に気づいた。
街頭の灯りが規則的に流れて行くのが見える。
その灯りに浮かび上がっては消える冴木の横顔を、ヒカルはぼんやりと見詰めた。
次には冴木に揺り起こされた。
「起きられるか?」
ヒカルはのろのろと起き上がった。身体がぎしぎしと痛む。
「…ここ、どこ?」
ひどく喉が渇き、声がかすれている。
「俺の部屋に行くんだよ。そのままじゃ、帰せないから」
ヒカルは冴木に抱きかかえられるようにして、車から降りた。
身体がだるく思うように歩けない。腰から下の感覚が乏しく、どこか痺れているようだ。
冷たい汗がしたたり落ち、だんだん不安になってくる。
歩くのがつらく、情けなさが募ってくるとヒカルは思わず、もうここに置いて行って欲しいと冴木に泣きついた。
冴木はごめんなとヒカルの頭を撫で、軽いヒカルを抱き上げて歩いた。
身体がこんなに痛まなければ、冴木の部屋までの距離はそんなにないのに、
その夜のヒカルには、例え抱き上げられていても冴木に揺られて行く道程はつらかった。

部屋に着き、灯りがともされる。昼間の暑さが部屋にこもっていた。
和谷たちと何度か来たことのある冴木の部屋は、相変わらず殺風景だ。
奧のベッドにもたれ掛かるようにして座らされ、
「家に連絡しておいた方がいい。俺のとこに泊まるって 」と、
電話機の子機を渡された。
ヒカルは頷き、冴木に渡された冷たい水を飲んでから家に電話を入れた。
冴木が窓を開けると夜の涼しい風が流れ込んで来る。
「…お母さん? 遅くなってゴメン。今日、冴木さんのとこに泊まるから…。
うん、明日の手合いは冴木さんのとこから行くよ。…うん、言っとく。…うん」
電話機を冴木に返そうとヒカルが振り向くと、冴木は2杯目の水を持ち、驚いた顔をして立っていた。
「進藤、おまえ、明日…手合いがあるのか?」
「…うん」
ヒカルにコップを渡し、隣に座ると頭をおおげさに頭を抱えた。
「…もっと早く言ってくれ…」
「あれ? 言わなかったっけ?」
あっけらかんとヒカルが答えると冴木にぐいと抱き寄せられた。
「あー、冴木さん。水、こぼしちゃったよ…」
「…今夜はさ、一晩中おまえを抱いていようと思ってたのに…」
ヒカルは改めて、冴木の顔を見た。見たと思ったら、そのまま口付けされた。


(10)
軽く唇を吸われながら、ヒカルは何と言って冴木の腕から逃げ出そうかと考えていた。
水がこぼれ、ほとんど空になったコップを握りしめ、ヒカルは自分でもわかるほどガタガタと震えた。
「…そんなに怖がらなくていい」
冴木の穏やかな声が聞こえ、ヒカルはかたく閉じていた目を恐る恐る開けた。
「冴木さん、オレ駄目だから。…もう体が」
「汗かいて気持ち悪いだろ? シャワー浴びておいで」
あわてて言うヒカルに、冴木はやさしく言った。
「立てるか? 今日はもう休もうな」
冴木はヒカルを立たせると、手を引いて洗面所に連れて行った。
「タオルを用意しておくから」
冴木はそう言うと、ヒカルが握りしめているコップを取り上げ、あっさりと出て行った。
また服を脱がされ、冴木に抱かれるようなことになると思っていたヒカルは、
ひとりで真っ赤になってしばらく立ち尽くした。
「そうだよな。…明日、手合いがあるって言ったんだし…」
ヒカルはのろのろと服を脱ぎ、バスルームに入った。
ぬる目のシャワーを浴びていると、冴木が何か声をかけてきた。
「……イン…アンド………から」
そう聞こえた。
ヒカルは生返事をし、シャワーの水を顔に当てて、口を開いた。
口の中に溜まった水を飲み込むと、とても喉が渇いていることに気づく。
無性に水が飲みたくなって、ヒカルはシャワーを浴びるのをやめ、バスルームから出た。
冴木の言ったとおりタオルが用意されており、それでさっと体を拭いて服を着ようとすると、
脱いで床に散らかしたままのはずの自分の服がなかった。
タオルを腰に巻いて洗面所に出たがヒカルの服は見当たらない。
「…冴木さーん」
呼んでみたが返事がない。
ヒカルは部屋に戻ってみた。どこにも冴木の姿がない。
「どこ行っちゃったんだろう…」
ヒカルはそう呟くと、喉が渇いていた事を思い出し、冷蔵庫を開けた。
勝手にウーロン茶のペットボトルを出してコップに注ぎ、飲み干す。
二杯、ウーロン茶を飲んで、やっとホッとした気持ちになった。
ヒカルはベッドに腰を下ろし、ひとり部屋を見渡した。
何か違和感を覚えて、少し考えてみる。
「…あ、時計がないんだ」
ベッドの枕元を見ても、目覚まし時計もない。
ヒカルはテレビのリモコンを取り、床にペタンと座った。
テレビをつけてみるとニュースをやっていた。チャンネルを変えてもニュース番組が多い。
しかし、だからといって、普段テレビも見ずに碁の勉強をしているヒカルには、
何時頃なのかさっぱりわからない。
「…冴木さん、どうやって朝起きているのかな?」
ヒカルはテレビを消し、ベッドに座りなおした。

この部屋は窓を開けて風を通しておけば、冷房がなくても涼しく過せるらしい。
冴木の部屋の周辺がどんな風になっているか、今まで気にもとめたこともなかったが、
熱帯夜の続く東京では珍しいことだ。
この部屋のことと、時計のこと。
それから、どこに行っていたのか、冴木が戻ってきたら聞こう。
ヒカルはそう思いながら、もう一度テレビをつけた。
ぼんやりと見ていると、眠くなってきた。濡れていた髪も半分ほど乾いてきている。
少しだけ…、そう呟いてヒカルはベッドに横になった。

お腹がすいたな、と思ってハッとして目が覚めた。いつの間にかすっかり眠ってしまっていたらしい。
体を起こしてみると、薄いダウンケットを掛けていた。部屋の中は真っ暗だ。
「…あれ?」
眼が慣れてくると、隣りで壁に背中を押しつけて、冴木が静かに眠っているがわかった。
外はまだ暗い。
しかし、開けたままの窓からうす青く空が見え、家々の連なる影に街灯の灯りが淡く輝いているのが見えた。
車の中で見た、あのうす青いものは、空の色だったのかもしれないとヒカルは思った。



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