魔境初?トーマスが報われている小説(タイトル無し) 6 - 10


(6)
触りあいをしたときには、ふたりとも乱れたとはいえ服を着ていた。
だけど今回は、そうもいかない。さっき風呂からあがって着たばかりのスェットの上下を、和谷が脱がしていく。
手つきはお世辞にも上手いとは言えなかった。もっとも手馴れてるほうが問題なんだけどさ。
それでもスェットの上は前開きのファスナー、下はウエストゴムだから、あっという間にトランクス1枚の姿に剥かれてしまった。
そんな俺を、和谷がじっと見つめる。和谷はまだ、服を上下とも完全に身につけたままだった。

「なんだよ?」
恥ずかしくって、ついつい声が尖ってしまう。だけど和谷は気にした様子もなくて、挙句にとんでもないことを言った。
「いや……お前の乳首って、やらしいよな」
「なっ! なに言ってんだよ!!」
「だってピンク色の乳首なんて、ポルノ小説のなかだけのものかと思ってたし。」
思わず目を自分の胸に落とした。そこには平たくて、お情け程度にふたつの突起があるだけ。
普通、だと思う。その…和谷の言うようにピンク色なわけじゃない。
ただちょっと他人よりも色素が薄くて、薄茶色というかベージュっていう表現が正しい。
だけど今は血が集まってて、皮膚の下の血の色が透けて見えそうだった。
「なぁ、プールの授業とか大丈夫だったか? 変なことされなかった?」
「なにもないに決まってんだろ! それより和谷も脱げよっ!!」
和谷は笑って、今度はスムーズに自分の服を脱ぎだした。ついでに部屋の電気も消した。
そっか。すっかり電気のことなんて忘れてたけど、こんな明るいなかでやろうとするから話が変な方向に進むんだよな。

ぱさりとシャツを落とした和谷の上半身の影は意外に大きくて、ちょっとだけ俺は震えた。
これは、そう、武者震い。


(7)
ふたりでベッドに寝転んだ後も、和谷はしばらくの間は大人しかった。
大人しかったといっても舌は俺の口の中やら耳の中やら首筋やら這いまわっていて、
もしかして和谷に食べられるんじゃないかと思ってしまったほどだけど。
……あ、こういうのも「食べられる」って言うのか。
自分の発想に真っ赤になってしまったのを和谷に気づかれなかったのには、ホッとした。
和谷はまだ自分の位置取りを決めかねているみたいだった。
俺に押しつぶしてしまわないように気を遣ってくれているらしい。
それは嬉しいんだけど、ベッドの中で和谷の身体が動くときに俺の太腿のあたりに硬いものが当たるのがたまらなかった。
初めは和谷の足かな? って思ってたけど、それってアレだよな。きっと。
和谷が俺の骨と皮ばっかりの貧弱な身体でも欲情してくれるってのは、けっこう凄いことだと思うけど。
だけど、怖いんだよ。本当にそんな硬いものを、俺の身体に挿れるのかって。

「ひっ……!」
思わず出した声は、裏返って甲高くて、なんだか媚びてるみたいで。
必死に抑えようとしたけど、止められない。
皺の寄っているシーツを噛んで声を殺そうとしても、和谷がそれを許してくれない。
「進藤の声、すっげぇイイ」
おまけに耳元でそんなことまで囁かれる。普段は凄くいいヤツなのに、こんなときは意地悪だ。
聞きたくないって意味を込めて頭を振っても、和谷の声は追いかけてくる。


(8)
「そういえば進藤ってココ、弱いんだよな」
「ひぁっ!」
身体中に電気みたいな痺れが走る。和谷が俺の乳首を指先で軽く摘まんだから。
それだけでもうどうしていいかわからないのに、和谷はその輪郭を舌でなぞり始めた。
まるで、赤ん坊が母親の胸にするみたいに。そんなことしても甘いミルクなんて1滴も出ないのに。
「やっ…和谷ぁ。いいかげんに…」
「やっぱりお前のココって、やらしくて最高。ほら、何もしてない反対側まで凄いぜ?」
わざわざ俺の頭をもたげさせて、胸を見せつける。
そこには和谷の唾液に濡れて、てらてら光った右胸と、触られてもいないのに赤く充血して尖ってる左胸。
さっきまで薄茶色だったソコは、今はピンク色に近かった。
さすがに今度は真っ赤になった顔を隠しきれなくて、そんな俺の反応を和谷は楽しげに笑っていた。

なんで、そんなに余裕なんだよ。
そう思って睨みつけると、和谷は笑いをおさめて真剣な表情をした。

「悪い。つい、がっついちゃってさ。もう興奮して、抑えきれねぇんだ」
俺の手が、和谷の左胸に導かれる。その下では、嘘みたいに速い鼓動がドクドクと打っていた。
俺よりもずっと早くて、このままだと心臓が壊れちゃうんじゃないかと思うほどに。

和谷も、緊張してるんだ。

ちょっと気持ちが楽になって、俺は胸から手を離すと和谷の頭を抱き寄せた。
我ながら、単純だ。でもさ、俺ばっかり意識してるなんて悔しいじゃん。


(9)
和谷の手はだんだん下へ下へと降りていって、ついに俺の太腿の内側まで辿り着いた。
最後の砦だったトランクスは、脱がされてベッドの外に放り投げられた。
ゆっくりと性器を握りこまれて、全身に粟立つような感覚が広がる。
キモチイイっていうのとは違うけれど、だからって嫌なわけじゃなくて。
なんていうか、俺の全てが和谷の手の中にあるっていうか、そんな畏怖に似た感情。
最初はそっと、そして少しずつ激しい刺激を加えられて、息が乱れていく。
だんたん硬く勃ち上がっていくのがわかったけれど、決定的なものがなくてイケない。
それは和谷が下手とかじゃなくて、たぶん俺が緊張しすぎているから。

「無理かな……」
和谷が緩急をつけたり、部位を変えたりと色々試してくれるけど、やっぱり駄目で。
もういいよって言おうとした瞬間に、和谷はとんでもない行動に出た。
「な、なにしてんだよ、和谷っ!!」
くせっ毛が、俺の股の間で揺れていた。和谷が俺のモノを、口で咥えていた。

押しのけようとしても、和谷は信じられないほどの力で抵抗した。
そのくせ、俺の性器を愛撫している舌の動きは優しさそのもの。
あんまり気持ちが良くて、俺の身体から力が抜けていく。だんだん水音が大きくなっていく。
身体中の血が、和谷の口の中めがけて集まってくるような感覚。
そして。

「ああっ…!」
止める間もないままに、和谷の口の中に出してしまっていた。
もう居たたまれなくて俯いた俺に、和谷の声が降ってくる。

「へぇ、これってこんな味がするんだな」
「……変態」


(10)
性器を握っていた手をそっと開いて、和谷の指が奥へ奥へと進んでいく。
一度達した名残でぼんやりしていた俺は、後孔のふちに指が掛かった瞬間にやっと気がついた。
じっとりと、嫌な汗がにじみ出てくるような気がする。
「なぁ……。和谷って、やっぱり俺に挿れたいの?」
「嫌か?」
「嫌、じゃないけど…怖い。痛いのは嫌」
「進藤が俺に挿れてもいいぜ。確かにお前の中に入りたいけど、駄目ならそれでもいい」

そんな簡単に。
そんなあっさり言っていいのかよ。
凄い痛いらしいんだよ? 明日起きられなくなるかもしれないよ? 男のプライドだって傷つくかもしれないんだよ?
だけど和谷は覆い被さっていた身体を起こすと、ベッドの上に座りなおした。そして、俺も起き上がらせる。
目線を合わせて、それから微笑んだ。俺がたぶん一番好きな、和谷の表情。
「進藤が決めていいよ。だけどどっちかにしてくれよ。俺、お前と繋がりたいから」

なんでそんなこと言うんだよ。
なんでそんな顔で言うんだよ。
そんなふうにされたら、俺。俺のほうが、和谷への想いが足りないみたいじゃん。

「……いいよ」
「えっ?」
「だから、和谷が挿れていいって! だけどなるべく痛くないようにしてな」
「努力してみます」

けっきょく、さ。
俺だって和谷の喜ぶところをみたいんだ。和谷が俺の身体で感じてくれるのが嬉しいんだ。
そして、和谷とひとつになってみたいんだ。



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