痴漢電車 6 - 10


(6)
 そういったわけで、この後、ヒカルは世にも恐ろしいものをその大きな二つの眼に映すことに
なってしまった。
 パンストに包まれた臑毛の渦巻く向こうずねを見せつける怪異なOL。股間が盛り上がった
筋肉質のバニーガール。たくましい太腿をきわどいスリットから覗かせるチャイナガール等々。
『ぜってえに負けられネエ―――――――――――――!!』
 ヒカルは、他の連中が二度三度と負け続ける中、一人で勝ち続けていた。それは、
アルコールが入っていないせいもあるだろうし、何より気合いの入り方が違う。

 「あ〜腹痛ェ………そろそろ一巡したか?もう次でやめるか?」
笑いすぎて、声も出ないらしい。ハアハアとつっかえながら、門脇が宣言した。
 次で終わり…………その言葉が緊張を断ち切ったのだろうか?ヒカルは、最後の最後で
躓いてしまった。
「ワハハハ!進藤の負け〜」
「進藤、初めてか?」
周りが嬉しそうにはやし立てる。どうやら、ヒカルだけが恥をかいていないのが、おもしろく
なかったらしい。こういう場所ではノリの悪いヤツは嫌われるのだ。
「初めての進藤にはコレな。」
そう言って、手渡されたのはセーラー服。
「それ、サイズが小さくて誰も着れなかったんだ。進藤ならイケるだろ?」
呆然とそれを眺めるヒカルに、門脇がトドメを刺した。
「何なら、終わった後進呈するぞ?」
ヒカルの頬は、カッと熱くなった。
「いらねーよ!バカ!あっち向いてよ!」
ヒカルは悪態を吐いた。プロになったのはヒカルの方が早くても、年齢は一回りも上の
相手に対してだ。しかし、門脇は気にする様子もなく、「ハイハイ」と肩をすくめて後ろを向いた。
他の者達もそれに習う。


(7)
 はっきり言って、男のストリップなど見たくもない。それに、こういうモノは最初のインパクトが
肝心なのだ。相手の姿が面妖であればあるほど、笑撃も大きい。
 「着たぜ………!」
憮然と告げるヒカルの声に、『さあ、笑うぞ!』と、みんなが一斉に振り返った。そして、
そのまま凍り付いた。
 仁王立ちで、「どうだ!」とばかりに、腰に手を当て門脇達を睨み付ける。みな、口を
笑いの形に開いたままボーっとヒカルを見ていた。

 「な、何だよ!?」
笑われるのを覚悟していたのに、無言のまま見つめられると却って不安になる。
「酔いが醒めた………」
「なんつーか………その……」
頭を掻きながら、ボソボソと呟く。
 どうして良いのかわからずに狼狽えるヒカルに、和谷が近づく。
「進藤………こういうモノは笑ってナンボなんだ………オマエ、シャレになんネエよ……」
ぽんと肩を叩いて、ヤレヤレと首を振る。
「素で、似合いすぎだよ………」
「ってゆーより、コレって反則じゃネエ?」
「コレじゃ、罰ゲームにならねえな………」
「じゃあ、進藤には別の罰ゲームを………」
 嫌がるヒカルに無理矢理着せておいて、勝手なことを…………!
「なんだよ、ソレ!勝手なこと言うなよ!」
 無慈悲にも、ヒカルの抗議は黙殺された。


(8)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 「………………………バカなことやっているな――……」
呆れたようにアキラは、言った。
「それで……今から買い出しに………」
ヒカルは、決まり悪そうに口籠もった。
「わざわざ、電車に乗って?買い出しならその辺のコンビニですむんじゃないか?」
 ヒカルだって、好きでここまで来たワケじゃない。無理矢理連れてこられたのだ。酔いが
醒めたとか言っていたが、連中の言動は変わらず怪しかった。

 ヒカルは、「似合うとか似合わないとか関係ない。自分だって、恥ずかしい!」と何度も言った。
「恥ずかしいならちょうどいい。」
「大丈夫。男だなんて誰も気づかないよ。」
などと、人ごとだと思って軽く言う。
 ヒカルは絶対イヤだと言い続けた。座り込んでふくれっ面で、そっぽを向いた。
「………進藤、ホッペつつきたいくらい可愛いぞ……」
「怒っても可愛く見えるだけだから、やめとけよ……な?」
何が「な?」だ!絶対、こんな格好で表になんか出ない!
 「………進藤………」
門脇が無表情で呼びかけた。無表情なのは顔だけじゃない。声の調子も抑揚がなくて、怖い。
ヒカルは少し怯んだ。
「な………なんだよ………?」
大きな掌がヒカルの肩をがっしりと掴んだ。門脇の顔が近づいてくる。
「言うことを聞かないと、チューするぞ!」
そう言って、唇をニュッと突き出す。
 自分に向かって、徐々に近づいてくる門脇のソレをヒカルは掌で遮った。
「………や!いやぁ!…………わかったよぉ………行くよぉ………」
「よーし、よーし、いい子だ!」
半泣き声で不承不承に頷いた。すると、門脇はパッと手を離して、ヒカルの頭をぐりぐり撫でた。


(9)
 「で、どこまで行くの?」
ヒカルは黙って切符を見せた。
「終点まで行くの!?」
アキラの問いかけに、コクンと頷く仕草が可愛い。アキラは改めて、ヒカルをマジマジと見つめてしまった。
 アキラが無言で考え込んでいるのを、不安そうに見ていたヒカルが「あ…!」と、小さく
声を上げてアキラの陰に隠れた。
 「どうしたの?」
アキラは、自分の肩に顔を押しつけるようにして、俯いているヒカルに訊いた。
「だって、あそこにいる女の人達……オレの方見て笑ってるんだもん………」
 振り返ってみると、ヒカルの言うとおりOL風の女の人が三人こちらを見て笑っていた。
だが、そこには侮蔑とか嘲笑の色は見えない。むしろ微笑ましい愛らしいモノを見守るような
優しい笑みだった。
 なるほど、自分たちはカップルに見えるのかもしれない。ペラペラ粗雑な偽物とはいえ、
セーラー服を身に纏ったヒカルは本物よりも本物らしい女の子に見える。はにかんで頬を
染める仕草が初々しい。困ったように自分を見つめる大きな瞳が、余計に可憐さを引き立てて
いる。もっと恥じらわせてみたい。
――――――――なんだか、いけない気分になってきた…………
と、その時、アナウンスが列車の到着を告げた。


(10)
 「あ、乗らなきゃ……」
そう独り言のように呟くヒカルの手を取ると、アキラはさっさと電車に乗り込んだ。
 驚いているヒカルの手を引っ張って、そのまま反対側のドアへと連れて行く。
「と、塔矢?」
ヒカルは何度も瞬きをしている。華奢な身体をドアに押しつけ、自分は周りからその姿を
隠すように前に立った。後から次々と乗客が乗り込んでくる。忽ち、身動きがとれなくなった。
 手をヒカルの顔の両側に着き、身体を密着させる。
「塔矢、いいの?帰るんじゃないの?」
アキラの意図に気付かずに、ヒカルは不思議そうに問いかけてくる。そのくせ、どこかホッと
したような安堵の表情を浮かべている。
「よかった……本当は一人で行くのちょっと心細かったんだ………」
 アキラの知るヒカルはもっと強気で、大胆だ。少なくとも、たかが買い物にオロオロするような
人間ではない。身につける物ひとつでこうも変わるとは………。
 「塔矢、ありがとうな。」
ヒカルははにかんだ笑顔をアキラに向けた。その瞬間、アキラの理性は完全にぶち切れた。



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