とびら 第五章 6 - 10
(6)
ヒカルは和谷の両肩をつかみ、その股の上へとにじり寄った。
和谷もそれが何を意図しているのかわかったのだろう、ためらいを見せたが、すぐに意を
決したようにヒカルを引き寄せてキスをしてきた。
キスをしたまま、自分のズボンのポケットをさぐっている。
中からはコンドームが連なって出てきた。
それを見たヒカルは噴き出し、和谷の顔につばをかけてしまった。
「そのつもりで今日持ってきたわけじゃないからな。いつも入れてるんだ」
言い訳をするが、ヒカルは準備がいいことに変わりはないと思った。
和谷は端を噛んで、袋を勢いよく破った。
出てきたゴムを片手で装着する。慣れたものだ。
「入れるぞ」
腰を支え、ヒカルの中央におのれの肉塊をあてがってきた。
ヒカルは腰をそろそろと落とそうとした。だが無理やり和谷が突き入れてきた。
痛みはなかったが侵入してくる衝撃に、ヒカルは手に力を込めた。
狭いな、と和谷はつぶやいた。
二人はほんの数秒、見つめ合った。
こんな座ったままの体勢でするのは初めてだった。
自分の重みで、和谷のペニスは難なく奥まで入ってしまっている。
「動いてもいいか?」
迷わずヒカルはうなずいていた。
早く自分のなかを蹂躙してほしかった。
和谷の熱を感じる。
そして受け入れている自分の内部も熱くほころび、狂おしく悶えているのがわかった。
「ひゃぁあっ!」
腰を持ち上げ、落とすのと同時に和谷が一気に下から上へと攻めてくる。
それを何度も繰り返されるうちに、ヒカルの口から呻き声ではないものが出てきた。
「やっぱ、進藤、おまえん中が一番いい……」
ずっとこの中にいたい、と夢心地で和谷はささやいてくる。
そのセリフにヒカルは思わず、ずっとこの中にいてほしいと返してしまいそうになった。
和谷は下半身を小刻みに揺さぶり、ヒカルの肉壁を摩擦する。
ヒカルの媚肉がゆるまっていく。すると和谷の動きもなめらかになっていった。
(7)
和谷のペニスがその先端まで引き抜かれ、また最奥まで突き進んでくる。
その突いてくる瞬間、ヒカルは頭のなかを光がひらめいた気がした。
もう一度それを味わいたくて、自分で腰を揺すった。
「あぁっ!」
また感じた。和谷のペニスの先端がヒカルの脆いところに当たったのだ。
和谷の動きに合わせて腰を振り、自分の感じるところを突いてもらう。
肩にすがりついていたが、背筋を喜悦が駆け抜けていき、ヒカルは身体をしならせた。
だが和谷が頭に手をまわし、放さないと言うように自分の胸に強引に引き寄せた。
律動が激しくなる。
息が二人とも上がってきた。
汗が吹き出て、服も髪もべったりと肌にはりついている。
ヒカルは歯止めがきかなくなっていた。
腰を大胆に使い、快楽をむさぼるように得る。
「いいっ……っんぁ、ああ……」
久しぶりにするセックスに、意識がもっていかれそうになる。
「おまえの顔、いやらしいな……」
和谷は感嘆したように言った。
しかし口の端から唾液をたらし、嬌声をもらすヒカルの耳にその言葉は入らない。
ヒカルはただ忠実に自分の欲望に従った。
淫猥な音と息遣いが対局部屋を満たす。
同じ階の大広間では、まだ棋士たちが対局している。
碁を打つ音が聞こえてきそうなほど、この部屋とはそう離れていない。なのに自分たちは
こんな淫らなことをしている。しかしその考えがさらなる興奮を呼ぶのも事実だった。
「和谷、オレもうっ……」
ヒカルは絶頂が近いことを訴えた。和谷もそれは同じらしい。
ひくひくと和谷のそれはうごめいている。
意識してヒカルは下肢に力を入れ、和谷のペニスを締め付けた。
腰に痛みがはしった。和谷が爪をたて、ヒカルの中で達したのだ。
ヒカルも己の精を放ち、そのまま和谷の首に手をまわして息をついた。
部屋の空気が薄くなっているような気がした。
酸欠したように頭がくらくらする。ヒカルは陸に上がった魚のように口を動かしていた。
(8)
ヒカルはようやく、和谷から身体を離した。そしてその姿を見てうろたえた。
和谷の服はヒカルが握りしめたためにくしゃくしゃで、しかも精液で濡れていた。
「ごめん。服、汚しちゃった」
「いいよ、別に。替えはあるし」
「え? なんで?」
「森下師匠の家に泊まるから、着替えを用意してるんだ」
ヒカルは膨らんだ和谷のカバンを見た。
(そうか、和谷は森下先生の弟子だから、泊ったりとかするんだ)
少し和谷をうらやましく思った。
(生きてる師匠がいるって、いいよな……)
和谷は切なげに見るヒカルの視線には気付かず、服を引っ張り出している。
「まだ終わってないよな、対局」
「終わるまで、待つのか?」
「まあな。売店で暇つぶしでもするさ」
「……じゃあ、もう一回しないか?」
服を脱ごうとしていた和谷の手がとまった。驚いたようにヒカルを見てくる。
「いいだろ? 和谷」
ヒカルはまた熱を感じはじめていた。
その熱を冷ましてもらいたいのか、それとも煽り立ててほしいのかわからない。
「……おまえ、もしかしたらすごい淫乱かもな」
「それってやらしいってことか? なら自覚してるよ」
開き直るなよ、と和谷は笑った。だが目は情欲の炎を揺らめかせていた。
ヒカルは新しいゴムの袋を破った。ぺり、という小さな音が二人の理性を消していく。
ひざまずき、しまったばかりの和谷のペニスをまた取り出した。
それを口に含んでねぶる。すぐにそれは反応して大きくなり、口腔を犯しはじめる。
すかさずヒカルはゴムをくるくると先端からかぶせた。
「俺おまえに狂わされていく気がするよ」
冗談とも本気ともとれる口調で言うと、和谷はヒカルの手を引っ張り立ち上がらせた。
「でもおまえに狂わされるなら本望だ」
ヒカルは壁に押さえつけられた。その腕をつかむ手の強さに、思わず逃げ出したくなる。
だがそうはさせないと言うように、ヒカルの片足を和谷は抱えあげた。
(9)
片足だけで身体を支えるのは不安定で、抱えこまれている足に力を入れてしまう。
「力を抜けよ進藤」
「だって足が」
「俺に身体をあずけてろ」
言うやいなや、和谷の唇がおおいかぶさってくる。すぐに舌が挿しこまれた。
舌の表面のざらりとした感触が身をふるわせる。
身体中の筋肉が弛緩していく。
それを見計らったように、ほぐれきっているそこに和谷は自分のペニスをおさめてきた。
ヒカルは艶めいた声を漏らした。
身体中の血が下半身に向かう気がした。
和谷のものを感じようと神経が鋭敏になる。
最後まで挿入した和谷は息を吐き出した。
「さっきよりも締め付けてくるな……進藤」
呼ばれてヒカルは首をかたむけた。和谷が真摯なまなざしで自分を見つめていた。
「俺、今度こそ自分を保てる自信がない。だって俺おまえの中にいるんだぜ?」
いつまでも理性的ではいられない、とつぶやくと、いきなり激しく腰を前後させてきた。
「あっ、あっ、あっ!!」
断続的にヒカルは声をあげた。
つながったところから快感が立ち昇るように押し寄せてくる。
自分のペニスも和谷の身体にこすられ、わけがわからないまま頂点に追い込まれた。
あまりに激しい行為にヒカルは肩で大きく息をした。
しかし和谷のそれは射精したにもかかわらず、その硬度と熱を失っていなかった。
また和谷は動き出した。
今度はさらにヒカルを揺さぶってきた。
和谷の身体と壁にはさまれ、息苦しくて仕方ない。
しかも和谷が突き上げてくるたびに少しずつ身体がずり上がっていく。
地面についていた足が宙を揺れはじめる。
なんとか爪先立っていたのだが、つりそうになってびくんと膝を曲げた。
すると和谷がもう片方の手でその足までをも抱えこんだ。
ヒカルは和谷と背中に感じる壁に支えられるかっこうとなった。
(10)
和谷が手をはなせば自分は地面に落ちてしまう。
それが怖くてヒカルは和谷の腰に足をしっかりとからませ、首にしがみついた。
しかしこれは和谷の動きを封じ込めてしまうことになった。
もっと強烈な刺激がほしいのに、これでは本末転倒だ。
身体がむずがゆくて、もどかしくて、おかしくなりそうだ。
「あっ」
不意に身体が落下した。ヒカルを支える和谷の手が汗ですべったのだ。
頭をぶつけそうになったが、直前で身体を引かれた。
「いてっ」という声が聞こえた。和谷が背中から畳に倒れたのだ。
ヒカルの身体の下にいる和谷は顔をしかめている。
だがそんな和谷を心配する余裕はヒカルにはなかった。
身体が自由になったのを幸いとばかりに、ヒカルは和谷の両脇に手をついて、そのまま腰
をうねるように上下させた。
つながったところから、しびれるような快感がうまれる。
和谷は驚いたようにただヒカルを見ている。自分が動くのを忘れているようだ。
そんな和谷を誘導するようにヒカルは腰を振る。
すると深々と突き立てられた和谷のそれが熱量を増した。
「はっ! っんぁ……!」
悲鳴のような声を出し、ヒカルは息をつめた。
ヒカルの尻をつかんだ和谷が容赦なく打ち付けてきたのだ。
「もっと、きつく……っ」
それに応えるように、一度ヒカルの中から抜かれた和谷のペニスが、さらに勢いをつけて
深いところまでうがってきた。
何度も何度も深みをえぐられる。
「ふっ、んっ、抜く、ときが……いいっ……」
「しん……進藤……っ」
和谷が腰を急激に旋回させ、角度を変えて貫いてきた。
もう何も考えられなかった。
獣のような本能のまま、壊れるくらいにお互いの身体をむさぼりあった。
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