椿章 6 - 10


(6)
そう言って目を臥せる進藤は、今度は妙に大人っぽく見えた。
俺はふとプロ試験の時の事を思い出した。あの短い期間で俺は変わる事が出来
ず試験に落ち、進藤は大きく変化して合格した。そしてこいつはあの時からま
た更に大きく変化している様な気がした。俺の一日と、こいつの一日は多分時
計が違うのだ。俺が心配するまでもなくこいつは多分、今の壁を乗り越える。
今度会う時はきっとまた、全然違う面構えをしているのだろう。
ラーメン屋を出ると真っ暗だった。あまり遅すぎては進藤の親御さんに
申し訳ない。ただ本音を言えばもう少しこいつと一緒に居てやりたい。
まだ何かこいつは胸の中のものを吐き出しきっていない気がする。
「…帰るぞ、進藤。」
「ん…」
進藤はもう一度暗い海を眺めている。
「…もう少しここに居たい…。」
進藤が眺める先を俺も見た。暗闇から今にも何かが迎えに来る様な、夜の海の
恐さがある。一歩踏み出して波に呑まれたらどこに運ばれるのかわからん。
視線を進藤に戻すと、進藤の口が小さく動いて何かを呟いている。
「オレ一人じゃ…、…がいなかったら…、…出来ないかも知れない…。」
そして進藤が足場の悪い海岸に降りようとした。
「おいっ、危ないぞっ!」
言ってるそばから進藤はバランスを崩して倒れかかり咄嗟にその体を掴んだ。
二人でそのまま後ろに倒れ込み俺は強かに腰を打った。
「大丈夫!?椿さん!!」
「大丈夫…じゃないかもしれん…。」


(7)
痛かったのは本当だが、その時俺はほんのちょっと大袈裟に言って見た。
「ちょっと休んで痛みが引かないとバイクに乗れねえなあ…、すまん進藤。」
もう少し進藤と話がしたい、そんなミエミエの時間伸ばしだった。
「ううん、オレが悪いから…。椿さん、ごめんなさい…。」
進藤が肩を貸してくれてバイクのところまで戻った。
「そういえば、もう少し戻ったところに“御休憩”って書いてある建物あった
じゃん。そこで休めるんじゃないの?」
お約束のような進藤のボケ発言に俺は地面に頭を打ちそうになった。
進藤はやっぱり…ガキだった。
「あのなあ、あそこはなあ、男同士では入れねえんだよ。」
「え?なんで?」
「いや、別にそう言う訳でもないのか?…俺は何を言っているんだ…。」
「???」
進藤はきょとんとした目をしている。まるで仔犬のように純粋な目だ。
その時ふと、よけいなお節介の芽がむくむく起こって来た。
「進藤、お前、男の兄弟はいるのか?」
「ううん、一人っ子だよ。」
「親父と風呂に入ったりするのか?」
「全然。父さん出張ばっかでさあ。」
うんうんと俺は頷いた。進藤が今イチ男臭くなれないのはそのテの突っ込んだ
話が出来る相手がいないせいだと俺は解釈した。
「よし、この機会に社会見学させるか…。それも面白いかも…。」
「何一人でぶつぶつ言っているの?椿さん。」
「御休憩するぞ。進藤。」


(8)
その前にとりあえず進藤が学生服なのはいくらなんでもまずい。
「おい、これを上に着ろ。」
自分のGジャケを脱いで進藤に渡す。
「えーっ、なんで?」
露骨に嫌な顔をしたが渋々羽織った。
「椿さん、腰は?」
「と、とりあえず短い距離なら大丈夫だ。」
そうしてバイクで少し来た道を戻り、…そこに入った。
一階が駐車場でそれぞれ階段で上の部屋に入るタイプだった。この手の建物に
しては表に派手な装飾がなくて、一見普通のモーテルに見える。
進藤は何の疑問も持たず階段をトントンと上がっていく。ハッキリ言って
気分は犯罪者だ。今誰かに通報されれば間違い無く俺は捕まるだろう。
ドアを開けるとそこはやたらと鏡の多い安っぽいその手の空間だった。
俺は進藤がどんな顔をするか見ていた。進藤はしばらくきょろきょろ部屋を
見回していたが、ベッドに寝転がった。
「ふーん、ラブホテルってこういう感じなんだ。」
オレはがっくり肩を落とした。
「…何だよ。知っていたのか。」
「知ってるよ、それくらい。でも、休憩するだけでも入っていいんだよね。」
…やはり何かは勘違いしているようだった。
進藤が枕元のスイッチをあれこれいじっている間に風呂場を見る。割高だけ
あってジャグジー付きで結構広い。
浴槽にお湯を入れ暫くしてバスソープを放り込み、スイッチを入れる。
見る見る内に泡が膨れ上がって浴槽の上に盛り上がるのをじっと見ていた。


(9)
その泡を見つめながら俺は考えていた。ひょっとして俺は、進藤の話を聞いて
進藤を救ってやろうと自分に言い聞かせながらも、本当は進藤に慰めてもらい
たいのではないのかと。
プロになる事を諦めたと同時に、一人の大切だった…少なくとも俺にとっては
…女が去っていった。だがそんな話を進藤にするつもりはない。あんな細い
肩に余分な重みは乗せる必要はない。
「椿さん、何してんの?」
背後からひょっこり覗き込んできた進藤が同時に大声をあげた。
「うわあっ!なにそれ!?」
「はあ?うおっ!!」
いつの間にか泡が俺の背丈近くまで盛り上がっていた。
「すげえ!!泡風呂だ!!オレ、入る!!」
見てる間に進藤は服を脱いで俺を押し退け泡の中に潜り込んだ。
「おもしれー、気持ちいーっ。」
泡を全身にまとって御満悦のようだった。
「椿さんは入んないの?」
俺はフッと笑うと服を脱ぎ捨て、これ見よがしにポーズをとって見せた。
ガリガリのガキンチョに重労働で鍛えた大人の漢を見せつけてやったのだ。
進藤は少し顔を赤らめて「へえ〜」と感心したような顔をした。どうだ。
「椿さん、胸毛から下までつながっているんだ。」
「毛のことはいいんだよっ!」


(10)
シャワーをザッと浴びて俺も泡の中に入った。どうせなら、ちゃんとした
温泉にでも連れて来てやればよかった。すると横で何か進藤がごにょごにょと
聞きたそうにしている。
「なんだ?」
「…大人になるとさあ、みんなあんな風に…黒くなるの?」
「ああ。なるなる。そうじゃないと女にバカにされるぞ。」
「うえっ」というような顔を進藤はした。
「大体お前、もうムケたのか。」
「えっ」という表情をする。ピンときた。
「ははあ、まだだな。友だちとかどうなんだ。」
「…よく知らない…。」
そういえば、最近の修学旅行とかでも水着を着て風呂に入るっていうし、銭湯
に行く事もないだろうからそういう話になる切っ掛けがないのかもしれない。
「どれ、見せてみろ。」
「え…、いいよお。」
「男だったら堂々と見せろ。」
進藤は渋々浴槽の縁に腰掛ける。泡の中に他の箇所とほとんど変わらない
色合いの男のシンボルが下がっている。淡く色付いた亀頭が半分程出ていた。
「なんだ。あと少しじゃないか。」
「これ以上は痛くてダメなんだよ…。」
「ダメな事ないだろ。かしてみろ。」
立ち上がって進藤の後ろから手を回してその部分を掴んだ。
「ひゃあっ、い、いいよ、椿さん…!」



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