やりすぎ☆若゙キンマン〜ヒカルたん癒し系〜 6 - 10
(6)
「どうしたんだよ、これ…」
薄暗い月明かりで今まで見えなかったが、近くで見るとそれはよく見えた。
何かで強く叩かれたような赤く腫れた痕や鬱血した痕が無数に小さな体に散らばっていた。
ヒカルたんはよく見ようと手首をつかんで引き寄せようとした。
若゙キンマンは激痛に顔を歪める。見ると手首にはずっと縛られていたような痕があった。
そしてこれらがまだできたばかりの傷であることがわかると、ヒカルたんは若゙キンマンの
身に何が起こったのか察した。
「これって、おまえ…」
ヒカルたんに見られるのが怖くて、若゙キンマンは手を振り払うと急いで岸へと上がった。
その後をヒカルたんも追う。そして岸に上がった若゙キンマンの白い内ももに、うっすらと
赤い線が無数に走るのを見て確信した。
「なァ、おまえそれって合意の上だったのか? それとも誰かに無理矢理やられたのか?」
ヒカルたんの問いに答えず、若゙キンマンは服を着る。
「おい、無視すんなよ。おまえそれがどういう意味なのかわかってるのか?」
「うるさい。キミには関係ないだろう」
そう言うと若゙キンマンはヒカルたんを睨んだ。
「関係ないかもしれねーが、こんなおまえを放っておけないだろ!」
その言葉を聞いて若゙キンマンはヒカルたんへ飛びついた。そして思い切り押し倒すと、無
理矢理キスを迫る。
息もできないくらい激しく貪られたことと、愛しいトーマスを裏切るわけにはいかない気
持ちから、ヒカルたんは若゙キンマンの唇をかじった。
「何すんだよっ」
息を荒げながら若゙キンマンを睨む。だが若゙キンマンは唇から流れる血をぬぐおうともせ
ずにじっとヒカルたんを見つめる。
「これがボクだ。…わかったらもう、…近づくな」
そう言うと若゙キンマンは森の中へ姿を消していった。
その消えていく様をじっと見つめる。ヒカルたんは頭の片隅に何か引っかかるものがあっ
て、ずっと動けないでいた。
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「んぅっ、トーマス。もっと…、もっと激しくしていいから」
結局若゙キンマンは碁会所に戻らなかった。ヒカルたんは更に佐為から責められたが、口答
えすることなく素直に謝った。そして夕食もそこそこにしてトーマスを求めた。
何があったのかわからないが、熱のこもった声で激しく自分を求めてくるヒカルたんに、
トーマスは必死で応えた。
「もっと…もっとオレをめちゃくちゃにしてよ。何も考えられないくらいにさ…もっと」
ヒカルたんは足りないとばかりにトーマスのモノを感じようと腰をふった。
トーマスはなかなか満足してくれないヒカルたんに焦り始めた。このままでは自分の体が
もたない。トーマスは唇を噛みしめ、若゙キンマンのことを思い出していた。アイツならヒ
カルたんを簡単に満足させることができるのだろうか。やっとアイツから奪い取ったとい
うのに、独占したというのに、どうしてこうも安心できないのだろう。トーマスは焦燥感
でいっぱいだった。
「トーマス、もっと、もっといじめてよぉ」
しびれを切らしたヒカルたんはその言葉発した途端、何かにとりつかれたかのように叫び
暴れだした。
「おい、どうしたっていうんだよ」
突然の変貌にトーマスは動揺した。
ヒカルたんは頭をふって泣き叫ぶ。そして震える手でトーマスに助けを求めた。
「助けて、トーマス。…オレの頭の中に、なんかいる」
ヒカルたんは恐怖でガタガタと震えていた。
「なんかいるって、どうしたんだ」
トーマスの問いにヒカルたんは泣きながら答えた。
「わかんない。なにか訴えてるんだ。思い出せ、思い出せって。でも何も思い出せない。
何か大切なこと忘れてるのに、思い出せないんだ。…アイツのせいだ」
「アイツ?」
トーマスは胸騒ぎを感じる。
「若゙キンマン。アイツを迎えに行った頃から、誰かがオレの頭の中で叫んでるんだ」
トーマスは絶句した。
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(8)
「怖い…怖いよ、トーマス!」
泣きながら抱きつくヒカルたんをトーマスは無言で見つめる。自分がどれだけ重い罪を犯
したのかわかった気がして、トーマスは抱きしめることができなかった。
強引に若゙キンマンの記憶をトーマスに変換したのだ。それによってヒカルたんが混乱を生
じるのも無理なかった。
ヒカルたんに飲ませた薬がそのようになるとは考えもしなかったトーマスは、苦しむヒカ
ルたんの顔が痛々しくて見れない。だが解毒剤などがわからない以上、この状況からヒカ
ルたんを救う方法は何もなかった。
「大丈夫。オレが何とかするから…絶対助けてやるから」
トーマスはそう言ってヒカルたんを慰めることしかできなかった。
(9)
翌朝、ヒカルたんは朝早くからパトロールに出かけた。
「考えても考えてもわかりません。いったいヒカルたんはどうしたというのですか? 若゙
キンマンは何故帰ってこないのですか? トーマス、何か知っていたら教えてください」
一人で朝食を食べていたトーマスに、佐為は暗い顔で尋ねる。目の下にはくまがあり、昨
夜はよく眠れなかったことがわかる。
トーマスはヒカルたんを得るという自己中心的な願望のために、大切な人を傷つけてしま
った自分が情けなくなった。ヒカルたんを若゙キンマンから守ることは正しいとずっと考え
ていたトーマスは、その正義のためならどんな手を使ったって構わないと思っていた。だ
が自分のしていることが正義ではないと思い始めると、どんどん罪悪感で押しつぶされそ
うになる。
トーマスは思い切って佐為に告白しようとも考えた。だがそうすれば自分の信用がなくな
るどころか、この町から追い出されてしまう気さえする。そう思うとトーマスはなかなか
言い出せないでいた。
「ごちそうさま。オレもパトロールに行ってきます」
トーマスは佐為から逃げるように碁会所を飛び出していった。
(9)
その頃ヒカルたんはパトロールをしつつ、若゙キンマンを探していた。
若゙キンマンに会うのは正直怖かった。だがこうする以外、自分の体の異変を解消する方法
などないと思ったのだ。
昨日若゙キンマンがいた湖や森などをヒカルたんはくまなく飛び回る。だが見つけるどころ
か手がかり一つ得られなかった。
ヒカルたんは上空からではなく、歩いて探そうと森へ降り立った。
「あ、雨だ」
数分も経たないうちに突然激しい雨が降り出し、ヒカルたんは雨宿りをする場所を探した。
するとちょうど洞穴を見つけ、ヒカルたんはそこに逃げ込んだ。
スコールのようなどしゃ降りに、一刻も早く若゙キンマンを見つけたかったヒカルたんは苛
立ちを感じた。だが同時に若゙キンマンに会う心の準備ができていなかったので安心した。
雨音を聞きながら、ヒカルたんは自分の唇をなぞった。昨日自分は若゙キンマンとキスをし
た。だがそのキスはヒカルたんに疑問を抱かせていた。あんなにも激しいキスをトーマス
以外としたことなどなかったはずなのに、初めてじゃない気がするのはなぜだろう。ヒカ
ルたんはそう思いながら唇をなぞり、目を閉じてあの時のキスを思い出していた。
(10)
「キミがヒカルたんかい?」
突然声をかけられたヒカルたんは目を開けた。いつのまにかそこで眠ってしまったらしい。
ヒカルたんは目をこすりながら声の主を見上げた。
黒いマントに身を包み、眼鏡をかけた長身の男がそこに立っていた。
ヒカルたんは誰だろうと小首をかしげて見つめる。
「なるほど。確かにかなりの上玉だな」
男はかがんでヒカルたんの顔をクイッと持ち上げた。
「あの…オレに何か用ですか?」
今まで見たこともない男が自分の名前を知っていることを不審に思ったヒカルたんは、万
が一のために戦闘体勢をとった。
「いや、ただどんなヤツなのか見てみようと思ってな。あの若゙キンマンを夢中にさせたと
いうヒカルたんとやらの顔を」
男は眼鏡を光らせてヒカルたんを見る。
「若゙キンマン? おじさん若゙キンマンのこと知ってるの?」
「おじさんじゃなくてお兄さんだ」
男は少々怒った顔をする。
「あ、ごめんなさい。えっとお兄さんは若゙キンマンのこと知ってるの? オレ今そいつの
こと探してるんだ。知ってたらどこにいるのか教えてくんない?」
何一つ手がかりがない今、若゙キンマンのことを少しでも知っている人に会えただけでもヒ
カルたんはうれしかった。
その笑顔を男は興味津々に見つめる。
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