夜風にのせて 〜密会〜 6 - 10
(6)
六
トイレの奥の個室に連れこまれたヒカルは、口を開かされてのどの奥に指を突っ込まれた。
信じられないくらいの量を便器に吐き出す。飲んだアルコールを全て吐き出させようとす
るかのように、アキラは何度も吐かせた。
吐き終えたヒカルはアルコールも手伝って、段々と意識が朦朧としてきた。体の力が抜け、
トイレの床に座り込む。
アキラは口の周りをトイレットペーパーで丁寧に拭くとヒカルを置いて出ていってしまっ
た。一人残されたヒカルは、アキラにまた迷惑をかけたと泣きそうになる。だがアキラは
水の入ったコップを持ってすぐに戻ってきた。そして口に水を含むと、ヒカルの口へ流し
込んだ。
「口をゆすいで」
アキラにそう促される。
「…それくらい自分でできる」
水を吐き出したヒカルはそう言うと、アキラからコップを取ろうとした。しかしアキラは
それを拒否する。
「いいから言うことを聞くんだ」
アキラは険しい表情になった。それに怯えて、ヒカルは言うことを聞いた。
何度もアキラによって口に水を流し込まれる。そしてゆすいで吐き出すということを繰り
返しているうちに、ヒカルは次第に正気に戻っていった。
「…もう、大丈夫だから」
壁伝いにヒカルは立ちあがった。だがアキラはヒカルを無造作に便器へ座らせた。
その後ろで鍵がしまる音がする。
ヒカルは恐る恐るアキラを見上げた。
「まだこんなにも元気がありあまっていたとはね。どうやらお仕置きが必要のようだ…」
アキラはそう言うと冷たく笑った。
(7)
七
「元気なキミは何かしら事件を起こすと思って、ここに来る前にあんなに抱いておいたの
に。よりにもよって倉田さんと間接キスするとは」
アキラは悔しそうにヒカルを睨んだ。
間接キスに怒ったから、アキラは何度も自らの口でヒカルの口の中をゆすいだのだとわか
ると、ヒカルは急いで謝った。
「ごめん。オレ、ちょっとむかついてて、つい…」
「むかついたらキミは誰とでもキスをするのか」
ヒカルは戸惑った。ヒカルが思っている以上にアキラの怒りは大きかった。そんなにも重
大なことだと思っていなかったヒカルは、困り果てて俯いた。
だがそれはアキラの言ったことを肯定するようにも見えた。
「立って。ズボンと下着を脱いで」
アキラはヒカルのネクタイを引っ張ってそう言った。
ヒカルは怯えて逃げることも抵抗することもできず、アキラの言う通りにした。
その間、アキラは便器にふたをして座ると、ヒカルが恥じらいながら脱いでいく様を楽し
そうに見つめた。
脱ぎ終えたヒカルは、見えないようにとワイシャツで股間を必死に隠した。ずっと感じる
アキラの視線に、ヒカルは段々顔を赤らめた。
アキラはその姿を満足そうに見つめると、自分のズボンのファスナーをおろし、中からそ
れを取り出した。
「舐めて自分で入れろ」
「え?」
ヒカルは意味がわからないとでもいうようにアキラを見つめた。アキラはヒカルのネクタ
イを引っ張って引き寄せる。それはまるで首輪のような役目を果していた。ヒカルの耳元
へ唇を寄せると、アキラは囁いた。
「ボクを怒らせた罰だ。ボクが満足するまでやめさせないよ」
恐る恐るアキラの顔を見る。アキラは口では笑っていたが、目が本気だった。
ヒカルは深呼吸をして目を閉じると、アキラの前に跪いた。
(8)
八
「もういい。そろそろ跨いで入れるんだ」
アキラはヒカルの頭をそこからはなす。ヒカルの口からはだらしなくよだれがたれていて、
それはアキラのそこと繋がるように糸を引いていた。
ヒカルはゆっくり立ちあがると、アキラの上に跨った。だがいきりたつそれを受け入れら
れるほど、ヒカルのそこはほぐされていない。いつもはアキラにしてもらっていたからだ。
それに今日はすでに何度も突き上げられていて、そこが無理だと悲鳴を上げていた。
ヒカルはしばらく黙ってアキラの上に座っていた。そしてもう許してとでも言うようにア
キラをちらっと見た。だがアキラは早くしろとばかりにヒカルを見下ろす。
ヒカルは仕方ないと諦めると、指をしゃぶって自分でそこを慣らそうとした。
「きちんと湿らせておかないと傷つけることになる。ボクが見てあげるよ」
そう言うとアキラはヒカルを立たせ、ドアに手をつけさせた。そして菊門がよく見えるよ
うに脚を開かせる。
「さあ、始めて」
アキラはそう言うと便座に座った。
ヒカルは戸惑った。ここをアキラに見られることは、だいぶ慣れた。けれども自分で弄る
など初めてだし、ましてやそれをアキラの目の前でしなければならないとなると、話しは
別だった。
「どうした、進藤。早くしないと心配して倉田さんとかが見に来るかもしれないよ」
ヒカルは体を硬直させる。恐らくそうなったとしてもアキラは自分を解放しないで抱き続
けるだろう。そんな気がしてならなかったヒカルは、さっさと終わらせようと唇を噛んで
目をつぶると、手を菊門へ伸ばした。
(9)
九
尻の割れ目からゆっくりと菊門の場所をさぐる。そしてたどり着いたヒカルの指は、入る
のをためらった。そして次第にバカバカしくなった。
「もうヤダ! 何でオレがこんなことしなきゃいけないんだよ」
ヒカルはそう叫ぶと、ズボンや下着を拾って着ようとした。
「進藤、ボクにはむかう気か?」
アキラはヒカルの手を止めさせようとする。しかしヒカルは暴れた。
「うるさい! もうオレにかまうな」
ヒカルはアキラを突き飛ばした。アキラはよろけて便座へ座った。
「あ、ごめん」
ついカッとなりすぎたと思い、ヒカルは謝った。だがアキラは冷たい目で睨みあげると、
ヒカルのワイシャツを引き裂く勢いで飛びかかってきた。
「イヤーッ!!」
ヒカルは大声で叫んだ。すると誰かの駆け込んでくる足音がした。
「進藤か? どこにいるんだ?」
その声の主は緒方だった。
居場所を知られるのはまずいと思ったアキラは、ヒカルの口をふさぐと物音を立てないよ
うに体の動きを封じた。
だがヒカルはアキラの指を噛んで手を退かせると、大声で叫んだ。
「緒方先生、ここ、オレここだよ」
緒方の靴音がヒカルのいる個室へと近づく。アキラは諦めたのか、ヒカルを開放した。
ヒカルはその隙に服を着込むとドアを開けた。
「先生!」
ヒカルは思わず飛びついた。
ヒカルの予想外の行動に、緒方は目を点にした。その間にアキラも個室から出てきた。
「アキラくん、これはいったい…」
「何でもありません。ただ進藤がふざけてビールを飲んだので吐かせていただけです」
毅然とした態度でアキラはそう言うとトイレから出て行った。
緒方は訳がわからないまま、震えるヒカルの頭をなでた。
(10)
十
「もう落ち着いたか?」
廊下のベンチで休むヒカルに緒方はタバコをふかしながら話しかける。
「大丈夫です。ヘヘヘ…」
ヒカルは情けなさそうに笑った。
アキラとの間に何が起こったかはわからないが、緒方にはヒカルが酷く痛々しく思え、無
言でじっと見つめた。
「そういえば緒方先生も来てたんですね」
緒方の視線を感じたヒカルは不審に思われていると思い、違う話題をふった。
「あぁ、今来たばかりだが。トイレによってから行こうと思ったら、進藤の叫び声が突然
してな。いったい何事かと思ったぞ」
「…そうなんだ。ごめんなさい」
話題を戻されてしまったヒカルは笑ってごまかすしかなかった。
「おう、こんなところにおったのか。緒方君も」
ヒカルを探していたのか、桑原がやってきた。緒方とヒカルは一礼をする。
「なんじゃ、ちょっとビール飲んだくらいでだらしないのぅ。言っておったはずじゃぞ。
今夜はとことん付き合えと」
そう言われ、ヒカルはよろけながらも立ち上がった。
「そうだ。男ならしゃきっとせい、しゃきっと」
そう言うと桑原は、ヒカルの尻を叩いた。
ヒカルは声にならない雄叫びを発して床に崩れ落ちた。
「あ? どうかしたか?」
「な…なんでも、ないです」
ヒカルは尻をさすりながら立ち上がろうとした。緒方はそれを助ける。だがその時襟の間
からヒカルの首筋に痣のようなものが見えて、緒方は顔をしかめた。
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