○○アタリ道場○○ 6
(6)
<お袋おかっぱノ巻>
「じゃあ行ってくる。戸締りは、気を付けるんだぞアキラ」
「アキラさん、後は お願いね」
「はい分かりました。いってらっしゃい、気をつけて」
日の落ちた夕方、行洋と明子は邸宅前の道路でタクシーに乗り、韓国に
行くため空港に向かった。
おかっぱは それを見送ると邸宅に戻り、居間で1人お茶をすする。
「あっ、そうだ。お母さんに頼まれていたことしなくちゃ。
もう、夕食時だし丁度いいや」
湯飲みを台所の流しで洗いながら、おかっぱは ある物に目を向ける。
その視点先にあるのは、古ぼけた一つの壺。
壺の上に置いてある板を取ると、中は ぬか床になっている。
塔矢家では食卓に漬物は欠かせない。このぬか床は、明子が結婚した時に
持ってきた物で、明子の実家秘伝とされる門外不出のぬか床だ。
そのぬか床は、すでに百年を経過していると言われ、漬ける野菜は極上の
ぬか漬けになる。まさに美味しんぼにも登場しそうな極上で究極のぬか床。
留守を預かる間、明子から おかっぱは「ぬか床コネコネ係」という塔矢家
食卓事情を左右する重大な使命を任される。
おかっぱは腕をまくり、「よっこいしょ」と、壺の前にしゃがみ、ぬか床
を右手でかき回し始める。
ぬかは毎日手入れをしないと、美味しいぬか漬けが作れない。
ぬか床をこねていると、幼い頃の記憶が おかっぱの頭に浮かんできた。
おかっぱは幼少時、明子と一緒に このぬか床に野菜を漬けた時、ぬかを
泥と間違え、お団子を作ったこともある。
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