黒い扉 6


(6)
不意に、先刻乃木の手で鷲掴みにされた箇所を誰かの指先がかりりと掻いた。
息を呑んでアキラが身を硬直させた時、辺りに怒号が響いた。
「おまえら、何をしてる!」
顔と体を固定する棋士たちの手がびくりと怯んだ。
巨大なモノに口内を満たされたまま眼球だけでそちらを振り向くと、
怒りも露わに全身を震わせる緒方がいた。
「お、緒方君」
「違うんだよこれは、塔矢君にもここの名物料理を味わってもらおうと思って――」
しどろもどろに言い訳をする棋士たちをどかどかと掻き分けて、
緒方はアキラの中からその物体を引き抜いた。
「あっ・・・」
自らの唾液をたっぷりと纏ったそれはますますぬらぬらと生々しい輝きを放ち、
添えられた緒方の指とも相まって、昨晩の似たような情景をアキラに思い出させる。
これ以上ないほど赤くなったアキラに、緒方がそれを振ってみせた。
「・・・うか?」
「え?」
「これ、食うか?見た目が気になるなら、切り分けてやってもいいが・・・」
首を横に振った。
緒方はおろおろしている白川の目を睨みつけながら皿を差し出させそれを返すと、
涎に塗れたアキラの顎をハンカチで拭った。

「緒方さん・・・あの・・・」
アキラは混乱していた。
挑発的に体の線を浮き上がらせた、美しい若い男たち。
緒方のカップと中の赤い液体を、事もなげに舐めて返した芹澤。
人体の器官を模った、芸術的とも言えるほどのグロテスクな料理。
加えて今さっき自分を取り囲んでいた棋士たちの態度――
それらが何を意味するものなのか、それとも大した意味などないのか、測りかねている。
黒い扉の向こうに隠されているものは何だ?



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