クチナハ 〜平安陰陽師賀茂明淫妖物語〜 6
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「・・・・・・」
「へっへー、オマエどうせ、怖い夢見て悲鳴上げちゃったのが恥ずかしいとかだろ?
でもオレ、もう聞いちゃったもんね。いつもツーンと澄ましてる、
都一の天才陰陽師として名高い賀茂サマが――」
「・・・別にそんなつもりじゃない。ただ、床から起き上がることくらい
キミの手を煩わせなくとも出来るから、こうしただけさ・・・」
自力で身を起こしながら、地の底から響くような声で明は言った。
光が軽口を止めた。
「あ・・・ごめ、・・・オマエもしかして何か怒ってる?・・・うん、確かにオレちょっと
言い過ぎた・・・かも・・・?えーと・・・」
顔を引きつらせてチラチラとこちらの様子を窺いながらエヘヘ、と笑って誤魔化す
その表情もまた、悪戯を見つかった子供のように素直過ぎて憎めない。
明は溜め息を吐いた。
その溜め息をまた悪い方向に取ったらしく、誤魔化し笑いも止めて
真顔になった光がしゅんと肩を落とす。
そうじゃない、キミは何も悪くはないのだと言葉を掛けてやりたかったが、
謝罪の言葉一つ口にするにもエネルギーを使う明にとって、そんなことは更に
難易度が高すぎた。
面倒臭くなって明は話題を変えた。
「それで・・・キミは今日も、佐為殿のお供でここに?」
「え?あー、ウン!でも佐為は今日帝の指導碁で遅くなるから、
オレ先に帰れって言われたんだ」
先刻まで肩を落としていたのに、明が話題を変えた途端またにぱっと笑って
何事もなかったかのように話に乗ってくる。
自分が誤解させておいて云うのもなんだが、一秒前のことを覚えていないのだろうか?
――わけがわからない。
だがそれを云うなら自分の話題の切り替えも相当唐突だったから
おあいこなのかもしれないと明は思った。
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