無題 第2部 6
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「芦原さん…?」
声の主に気付いて、向こうの様子が変わった。
「ごめんなさい、すぐ行きます。」
やはりいたようだ。寝ていたのを起こしてしまったろうか。申し訳ない気分になりながら、門が
開けられるのを待った。
カチリとカギが開けられる音がした。カタカタと音を立てて開けられた門の向こうにいる少年を
見て、芦原は息を飲んだ。
「アキラ、オマエ、どうしたんだ…!?そんなにやつれて…」
頬の肉が落ち、元々細身の体が更に細くなったように見える。顔には血の気が無く、芦原を
見上げるその瞳にも、力が無い。
「…そうですか?少し寝込んでしまったもので…」
弱々しい声でそんな風に応える少年の身体を、芦原は思わず抱きしめた。
「バカヤロウ…!なんで、そんなになる前に連絡しないんだ!?」
「今、お父さんもお母さんもいないんだろう?言ってくれれば来てやるのに…」
腕の中で、アキラが小さく頷いたのを、芦原は感じた。
それが頼りなげでいたいけで、自分が守ってやらなければいけない存在に感じて、芦原は彼
を抱く腕に力を込めた。背中に回された手が、ぎゅっと芦原の上着を掴んだ。
「…ううん、大した事ないんだ。ただ、ちょっと風邪をこじらせただけなんだ。」
そう、ちょっと風邪を引いただけ。頭が痛いのも、身体のあちこちが痛むのも、食欲がないのも。
アキラはそう自分に言い聞かせた。
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