少年王アキラ 6
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アキラ王は金沢へ旅立つべく、自室で荷物の準備に取りかかった。
金沢競馬場は全国に10ある中央競馬場ではなく、地方競馬場である。
だが、競馬ファンの民をして「万馬券あるところアキラ王あり」とまで
言わしめる華麗なる万馬券ハンターに中央も地方も関係はなかった。
ペンケースから赤鉛筆を取り出し、ナイフで心を込めて先を尖らせる。
「この赤鉛筆で、ボクは幾多のレースを的中させてきた。ボクの万馬券に
かける魂の全てが、この赤鉛筆に込められていると言っても過言では
あるまい……」
芸術的なまでに美しく削り終えた赤鉛筆を手に、アキラ王は窓辺に向かうと、
赤鉛筆を空にかざす。
その鋭い先端を恍惚として眺めるアキラ王はふと呟いた。
「……レッド……そう、ボクの情熱……」
熱い溜息を漏らすと、遥か空の彼方を見上げる。
輝くばかりの笑顔を見せるレッドの姿を思い浮かべ、アキラ王は微かに
震える手で赤鉛筆を唇に寄せた。
そんなアキラ王の背後から、哀愁漂う楽の音が響き渡る。
♪あ〜か〜え〜んぴ〜つ〜に、くちび〜るよ〜せ〜て〜
だ〜ま〜ってみ〜て〜い〜る、あ〜おい〜そ〜ら〜
レッドはなんにも言わないけれど、レ〜ッドの気持ち〜は〜
よ〜くわ〜か〜る〜
レ〜ッド〜かわ〜い〜や〜、かわいやレ〜ッド〜
そこには恭しく跪き、ラジカセのスイッチを押す可憐な執事、座間の姿が
あった。
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