Shangri-La 6


(6)
緒方は、感心しながら黙ってアキラの背中を見送った。
アキラに、自分の本意ではなかった、と言わせたくなくて
右手が何度も行きつ戻りつしていた事は、分かっていて放っていた。
人間がもっとも耐えられないものは快楽だと聞いたことがある。
オレなら我慢なんかしないな。
――進藤に何があったか知らないが、面白いネタを拾ったようだ…。


気がついたら、アキラは自室の冷たい畳の上に転がっていた。外は明るい。
体を起こそうとして、痛みに頭を抱える。ひどく喉が渇いている。
頭を抱えたまま、緩慢すぎるほど緩慢な動作でキッチンへ立った。
水を飲み、人心地ついたところで、昨夜の事を考えた。
とりあえず自宅に帰ったところ迄の記憶は――ある。
記憶を辿って、一瞬の疼痛のあと、はっと感覚がさえた。
頭の血管の脈動と痛みが、一体になっているのが分かる。
緒方の感触も、くっきりと甦った。

あの時、進藤の話が出なかったら…きっと流されていただろう。
僕にはなんの連絡もなかった。でも、緒方さんは知っていた…なぜ?

アキラの中では、沢山の端切れがばらばらに積み重なってしまって
痛む頭では、それを整理することもかなわなかった。



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