白と黒の宴2 6
(6)
アキラと社は一時、ただ互いに黙って見つめ合った。
「…ああ…ボクもそう思う…。より強い者が選手になるべきだ…。それに、
社のセンスには強く惹かれるものがあった。あの場にいた者なら誰だってそう感じたと思う。」
思うままの事を素直に答えたつもりだったが、それを聞いて社がにっこりと嬉しそうに笑んだ。
「ほんまか!?塔矢アキラにそう言ってもらえるとありがたいわ。」
子供のような社の笑顔にアキラは一瞬戸惑った。
ヒカルもつられるようにやや興奮した様子で社に声を掛けた。
「がんばれよ!社。言っておくけど越智だって相当強いからな。」
「ああ。」
その時廊下の向こうから雑誌部の古瀬村がヒカルを呼んだ。
「進藤くん、とりあえず君に関する文章を先に作るから一緒に来てくれないか。」
「あ、はーい。それじゃあ社、塔矢、また明日な!」
ヒカルが二人に背を向けて駆け出していった。アキラもちらりと社を見たが、
「それじゃあ。ボクはこれで…」
とそこから立ち去ろうとした。するとふいに社に腕を捕まれグッと後ろに引き寄せられた。
社の顔が目の前に来た。キスをされる、と思わず体を強張らせて目を閉じた。
廊下の向こうではまだ行き交う棋院の職員や棋士らが居る。もしも彼等に見られたら、
とアキラは怖れた。だが社は何もして来なかった。
ただ肩を抱いて間近でアキラの顔をしばらく眺めただけだった。
「…何か期待したみたいやけど、いくらオレでも今そのつもりはないで。」
アキラはカアッと赤くなって社から離れた。
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