アキラとヒカル−湯煙旅情編− 6
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「塔矢、悪いな。」
成り行きで4人で食事する事になってしまった事をヒカルは詫びた。アキラと二人きりで過ごしたくて旅行に誘ったのは自分なのに・・・だが、久しぶりに会えた加賀や筒井ともゆっくり話したい。
こんな事がなければ、改めて会うこともそうそう無いかもしれないのだ。
アキラは、気にしなくていい、と言って、自分達の部屋に食事の部屋出しをしてくれるよう、フロントで頼んでくれた。
最初加賀が頼んだ時は少し渋い顔をしたのだが、アキラが申し訳なさそうに、だがきっぱりとした口調でそこを折ってお願いしたいのですが・・・と頼むと承諾してくれた。
時々思うのだが、アキラには相手に有無を言わせない神通力があるような気がする。
「広ぇ部屋だな。」
「わッ、こっちにも小さい部屋があるよ、眺めもいいねえ。お風呂場も広いなあ」
筒井ははしゃいで部屋のあちこちを探索している。
「そういえばおまえ、もう一人前なんだよな。」加賀は座椅子に仰け反り、感慨深げに煙草の煙を吐き出した。
「準特室だからな。」ヒカルは部屋を褒められたのが嬉しくてふふんと得意げになる。
「準特ってセミスウィートってことかな?普通は新婚さんが泊まったりする部屋なんだね。」
筒井の言葉にヒカルは自分の顔が少々熱くなるのを感じた。確かにアキラとの旅行を特別なものにしたくて高い部屋をわざわざ取ったヒカルだった。
アキラは2人の様子を微笑ましく眺めながらお茶を入れている。
「どうぞ。」しっかりと湯冷ましをして入れたお茶を加賀に差し出した。
「どうも・・・。」差し出された白く細長い指を加賀は見た、そしてその指の持ち主の顔を見上げた。
静かに微笑を浮かべた美しい顔。子供の頃、まるでお人形さんのようだと感じた完璧な顔立ちに少々翳りが加わり、艶っぽい印象を与えている。
見るものを捉えて離さない意志を持った黒目がちな大きな瞳、形のいい鼻、唇・・・小さくぷっくりとした唇は可憐な花びらを連想させた。
「あの・・・。」
僅かに頬を紅潮させ、アキラは静かに目を逸らした。
「おっと・・・・・・悪い。」アキラに見とれていた自分に、加賀は動揺した。
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