Cry for the moon 6
(6)
まったく、俺って女々しいよな。いつまで昔を引きずってんだ。
しかも相手は別れた恋人とかじゃなく、同じ中学の同級生だ。
なのにいちいち反応したりして、自分でも滑稽だと思う。
「進藤、そちらは」
「俺の中学の時の囲碁部の友達。三谷って言うんだ。三谷、こいつは……」
「知ってる。塔矢アキラだろ」
「そうか、会ったことあるもんな」
なんだか的外れな言葉だ。囲碁に少し興味を持つ者なら塔矢アキラくらい知ってる。
「ボクは彼に会ったことがあるのか?」
「覚えてない? 囲碁部の大会で」
塔矢アキラは首をかしげた。そしてすまなさそうに俺を見た。
覚えてなくて当たり前だ。あのときの塔矢アキラは進藤しか見ていなかった。
そして進藤も同じように、塔矢アキラしか見ていなかった。
そんで挙句のはてに院生試験を受けるって言い出しやがったんだ。
あの時の衝撃は忘れられない。裏切られたと思った。何のために俺をここに誘ったんだ。
自分から手を差し出してきたのに、あっさりと引っ込めるのかよ。
こんなやつ、プロになれなくて遠くから塔矢アキラを見ていればいいんだ。
そんなふうに思った。頑張れよ、なんてとても言える気持ちにはなれなかった。
自分がガキだったのだと今ならわかる。
「んじゃ、ま、全員そろったところで、進藤のタイトル獲得を祝って、乾杯!」
いっせいに飲みかけのグラスを掲げる。照れくさそうに進藤は笑った。
何だか進藤とものすごい隔たりを感じた。目の前にいるのに。
「……良かったな、まだ三段なのに、タイトル取れて。しかも本因坊。一番権威と歴史が
あるやつじゃん。プロの目標達成って感じだな」
何でこんな言い方しかできないんだ、俺は。素直におめでとうっていえばいいのに。
これじゃあ嫌がらせを言ってるみたいだ。
|