月下の兎 6
(6)
だが端まで来てもそれらしい場所は見つからなかった。
少し幅の広い通路を挟んで隣の倉庫があるだけだった。
跳んで渡るには距離がありすぎるようだった。足場だって何があるか暗くてよく分らない。
後ろを振り返るとヒカルが登って来た場所から1人の男が上がって来ていた。
倉庫脇のライトで照らされてニヤリと笑っているのが遠目でも感じられた。
男は余裕ありげに手を差し出しておいでおいでをしている。
“もう逃げ場はない。おとなしくこっちにおいで”―と。
ヒカルは少し迷い、ため息をつくと、男の方に向かって歩き出した。
それを見て男はますます嬉しそうに目を細めて倉庫下の仲間にOKサインを送った。
ヒカルは半分近く倉庫の屋根を男の近くへ戻った。
と、突然ヒカルは男に背を向けて走り出した。男が驚いて「おいっ」と叫んだ。
端まで走ると、勢いをつけてヒカルは通路向こうの倉庫の屋根へ思いきり跳んだ。
ダーンッとトタンのような金属のような物が弾ける音が倉庫街に響き渡り、
着地した勢いがとまらずヒカルの身体は屋根の上を転がって行った。
金具にシャツが引っ掛かって布が裂ける音がした。と同時に身体のその部分に
激痛が走った。
どこかに手を付いたせいでか、左の手のひらの数カ所が切れて血が出ていた。
それでもかまわずヒカルは立ち上がると先を急いだ。
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