heat capacity2 6


(6)
「進藤…止めろ」
腕を強く掴まれた。
「でも、」
「止めてくれ、頼むから」
その不愉快そうな声に思わず身が竦んだ。その言葉には拒絶の色が滲んでいて、有無を
言わさない響きだった。
ああ、まただ。俺、また何かやっちゃったんだ。なんでいつもこうなるのかな。我なが
ら自分の無神経さに腹が立つ。
俺は身体の中にあった塔矢のモノを引き抜くと、浴衣を正そうと腕に引っ掛かっていた
襟の部分に手を伸ばした。着ているとは言い難いものの、かろうじて結び目が解けずに
いた帯のおかげで完全には脱げなかったみたいだった。
衣擦れの音だけが聞こえる静かな空間の中、俺は酷く惨めな気分になっていた。
惨めで、情けなくて、苛立たしくて、悲しくて、居堪まれなくて。
そんな所に一人でいるのが嫌で、俺の方から沈黙を破った。
「……ゴメン」
塔矢は何も言って来ない。
あいつの顔を見る、それだけの事に俺は凄い気力を使った気がした。
顔を上げると、塔矢はただ辛そうな──それでいて俺よりもずっと居堪まれないような
表情で俺を見ていた。泣きそうな、というのが一番しっくり来るのかも知れない。
「どうして……謝るの?」
「だ、って」
言葉を続けようとして、その先は出て来なかった。
喋り続けたら、自分が何を言い出すか分からなかったからだ。喉が熱い。鼻の奥がツー
ンとしてくる。このまま、嗚咽と共に全てを吐き出してしまえれば、ラクなのに。
すぅっと深く息を吸う音が聞こえた。
「ボクは」
そう言って、また口を軽く引き結ぶ。言うのを躊躇っているとかじゃなく、どう言おう
か迷ってる、そんな感じだ。
塔矢の、唾を飲み下す音が聞こえて、自分が凄く緊張している事に気付いた。
瞬間、塔矢が顔を上げていった。
「ボクはキミが辛いのは嫌だ。そうまでしてセックスをしたいとは思わない」
真直ぐな視線に射抜かれた。



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