平安幻想秘聞録・第一章 6


(6)
 夜も更けて、明が帰った後も、佐為はヒカルのところに留まり、尽き
ることのない話を交わしていた。ヒカルにはこの時代がもの珍しく、逆
に佐為にとってはヒカルの話す、未来の世でのコミのルールや対局時計
などの囲碁に関わることに始まり、パソコンというからくりの箱の話に
至っては、もう不思議としか言いようのないものばかりだった。
「それにしても、私は光がこれほど見目麗しい若者になるとは思っても
いませんでした」
 ふと話が途切れとき、佐為は改めてヒカルの姿を見つめながら、そう
言った。
「見目麗しいって、えーと、綺麗ってことか?」
「えぇ」
「それで、何が?」
「光が、ですよ」
 扇子で口許を隠しながら、佐為がふふふと悪戯っぽく笑う。
「えっ、オレ?」
「えぇ。私が知ってる光は、もう元服を過ぎた年だというのに、まだあ
どけないというのか、元気いっぱいの子供のような少年でしたから」
 二年前といえば、ヒカルが佐為と別れる少し前だ。振り返ってみて、
確かにあの頃の自分は、すごく子供だった。佐為の不安も分かってやれ
ないほどの。検非違使という仕事に誇りを持って毎日鍛錬に励んでいた
という近衛光の方が、内面的には自分よりよっぽど大人かも知れない。
「それが、今の光は匂い立つような色香があって、まるで絵巻物に出て
来る高貴な若君のようですよ」
 もっとも光は昔から可愛かったですけどね。そう付け加える。
「あなたの、その目立つ金の前髪がなかったら、一瞬、別人かと見紛っ
たかも知れません」
「やめてくれよー。綺麗っていうのは、佐為のようなヤツを言うんだろ」
 身近にいるときは意識したこともなかったが、佐為は花のように綺麗
だったと、その面影を思い浮かべる度に思ったものだ。初めは大切な思
い出だから美化されているのでないかとも感じたが、こうして目の前に
してみると、やっぱり佐為は綺麗だと思う。



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