平安幻想秘聞録・第三章 6


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「可相想ですが、暇をやることにしました」
 これが弱みを握られて脅かされていたというのならともかく、袖の下
を掴まされ、主人を裏切る行為を働くのは、お館勤めをする女房なら決
してやってはいけないことだ。万が一、門番が役に立たないのを見て、
夜盗にでも押し込まれてでもいたら、どうなったことだろう。佐為は次
の勤め先への紹介状を書くつもりもなく、ツテもない彼女が別の屋敷に
召し抱えられる可能性は、限りなくゼロに近い。
「ここまで厳しく罰することもないのかも知れませんが」
 珍しく佐為は本気で怒っているようだ。東宮が自分の屋敷の者を使い、
ヒカルに不埒な真似をしようとしたことが、余程腹に据えかねているら
しい。
「春の君が、こんなに光に執着してるとは思いもしませんでした。昨夜
の失態に懲りて、諦めてくれると良いのですが」
「そうだな。あれじゃオレもおちおち熟睡してられないもんな」
「えぇ。早急に藤原行洋さまに会見をお願いしようと思っています」
「でも、忙しいんだろ?」
「お忙しいのは分かっていますが、光の貞操の危機には変えられません」
 貞操って何だ?とぽけっと見返したヒカルに、佐為が思わず苦笑した。
見かけは見目麗しき公達だというのに、こういうことに関してはヒカル
はひどく疎く、幼いとさえ言える。だからこそ、つい保護欲が刺激され
て放っておけないのだ。
「朝餉が終えたら、行洋さまからの返事を待つ間に一局打ちましょう」
 にっこりと微笑む佐為に、ヒカルもつられて笑顔になる。佐為はやっ
ぱり碁を打てるときが一番楽しそうだな。
 が、その日のうちに行洋からの返事はなく、一夜明けてもたらされた
知らせに、佐為とヒカル、そして数日ぶりに屋敷を訪れていた明は愕然
となった。



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