りぼん 6


(6)
家に入ったとたん、塔矢が襲ってくるのをオレは覚悟してた。
ずっと前だけど、玄関でオレ、塔矢に抱かれたことあるし。イヤだって言ったのにさ。
けど今日はそんなことはしてこなかった。だからって安心したわけじゃないぞ。
まずは塔矢の部屋に案内された。じぃっと見るオレに気付いて、塔矢は苦笑した。
「別にすぐにキミを押し倒す気はないよ」
「でも後でするつもりだろ」
「まあね。それより座ってなよ。ちょっと用意するものがあるから」
用意!? 用意って何のだよ!! 
部屋に残されたオレはぐるぐると塔矢の言葉を思い返す。
アイツはロクなことをしないから、不安になってくる。
それにしても、相変わらず何も置いてない部屋だな。
あ、でもなんか勉強机の真ん中に見たことのない箱が置いてある。
「進藤、待たせてゴメン。居間に……進藤?」
「なあなあ、これ何が入ってんの?」
「ああ、それはお父さんからのプレゼントなんだ」
そう言うと塔矢は大切そうにその箱をあけて、中のものを見せてくれた。
筆と墨と硯に、紙が行儀よく入ってた。書道セットか?
「文房四宝だよ。まさかこんな高価なものをくれるなんて思いもしなかった」
塔矢の声がはずんでいる。こんなのがうれしいのか? オレだったら他のがいい。
ホントによくわかんねえヤツ……。
ちょっと引いてるオレに気付かないで、塔矢は興奮気味に話してくる。
「ほら、見てよこの墨。きっとすごくいい色を出すと思わないか? それにこの筆も紙も、
一級品だ。ボクの持っているのとは全然ちがう。なによりも硯が……」
オレ墨汁しか使ったことないし、筆も紙も硯も、どうでもいいんだけど。
「塔矢は習字するのか?」
「お父さんがね、書道の基本くらいは身につけておくべきだ、って言って小学生のころ少し
習ってたんだ。とりあえず段まではいったよ」
とりあえずで段〜? 囲碁以外、なにもしたことがなさそうなヤツのくせに。
「今からでも遅くないから、進藤も少しやってみたら?」
ちぇっ、どうせオレの字は汚いよ。
そう言えば初めて会ったときの倉田さんにも、「へったくそな字!」って言われたっけ。
佐為も『虎次郎とは大違い』って――――
「進藤、早く居間に行こう」
急にそでをつかむと、塔矢はそのままオレを引っ張って行った。
なんか塔矢、ちょっと怒ってないか? 
本当にわけわかんないうちに機嫌が悪くなるヤツだよな。



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