初めての体験 Aside 番外・ホワイトデー 6
(6)
し、し、し、進藤の手作りクッキー!?ボクは、興奮して震える手で、ふたを開けた。
甘くて、香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
「……………こげてない……」
そこには、こんがりときつね色に焼き上がった、可愛らしい星やハートのクッキーが
ぎっしりと詰められていた。
「……………………………………………………………………………………」
なんだろう……この寂寥感は……………。ボクは自分の気持ちに戸惑っていた。この
見るからに美味しそうなクッキーを前に、何故、物足りなさを感じているのだろう………。
進藤の料理の腕前がレベルアップしているのなら、それは喜ぶべきものではないのか?
それなのに、こげていないからと言って、どうして、がっかりする必要があるんだろう。
「どうしたんだ?食べネエの?」
進藤が、クッキーを前に黙りこくったままのボクを不思議そうに覗き込んだ。
「え…た、食べるよ…食べる…」
一つを口に運んだ。………………美味しい。さっくりとした歯ごたえといい、口の中で
簡単に崩れる舌触りといい、抑えめにした甘さといい、どこをとっても申し分がない。
それなのに――――――――ふぅ………
進藤が子犬のような汚れない瞳でボクをジッと見つめている。感想を要求しているのだ。
「美味しいよ。」
ボクは、にっこりとほほえみかけた。コレは本当のことだ。しかし、ウソをついたような気持ちに
なるのは何故だろう。
「よかったぁ!お母さんに言っとく!」
そう言って、進藤が、無邪気に笑った。ボクはというと、そのとききっと間の抜けた顔を
していたに違いない。
ボクの視線に気づいているのかいないのか
「オレが作ってもどうせ失敗するから、お母さんに頼んだんだぁ。」
と、美味しそうにクッキーを頬張る。
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