失着点・展界編 6
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ヒカルの視界を遮るように道路にバスが停まった。でも確かに和谷だった。
ラフなジャージ姿で、まるで夢遊病者のようにこちらをじっと見ていた。
バスが動き出した時、和谷の姿は消えていた。
ヒカルは思わず駆け出して道路を渡り、周辺を見回す。
基院会館に戻り荷物を取りに行く。和谷を追い掛けなくては。
伊角に声を掛けようか迷う。伊角は、まだ対戦中だった。
伊角より先に、和谷と二人だけで話しをしなければいけない。
ヒカルは一人で表に出ると和谷のアパートに向かった。
何となく和谷がそこに戻るような気がしたのだ。自分が来る事を予想して。
だが実際アパート前まで来てみると、そこで足が止まってしまった。
娼婦のように演じて和谷を誘惑した、薄汚れた自分がそこに居着いている。
「よお、」
ふいに背後から声を掛けられてヒカルは飛び上がりそうになった。
コンビニの袋を左手に下げた和谷が立っていた。袋からペットボトルの類いが
覗かせている。
「…和谷」
「久しぶり。来てくれたんだ。上がってくか?」
和谷はいつも髪をムースで立たせてワイルド系にそれなりに見せていた。
今は、それもしてなくてただのバサバサの洗い髪のままのようだった。
「上がっていくか」という問いにヒカルは答える事が出来なかった。
「別に何もしねえよ…。なあんて言っても、信用されねえよな。
でも、心配して来てくれたのかな…?ありがとう。じゃあな。」
和谷はそう言ってポケットに突っ込んでいた右手をひらひらさせた。
薄汚れた包帯をぐるぐる巻にしたその手の甲の辺りに血が滲んでいた。
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