月明星稀 6


(6)
戸惑いと混乱を抱えたまま、ヒカルはふらふらと女房の案内のままに別部屋へ進み、しつらえられた
寝床へ身を横たえた。
けれど床に就いても、混乱はヒカルから眠りを奪ったままだった。
思いもかけなかった告白にヒカルは混乱し、困惑する。混乱のままに、逝ってしまった人の名を呼ぶ。
「さい…」
けれど目の裏に浮ぶのは花のように典雅で艶やかな微笑みではなく、柔らかで優しく穏やかな眼差し
ではなく、厳しく真っ直ぐに見つめる黒曜石の瞳。
耳に木霊するのは、「君だよ、近衛光。」と、己の名を告げる声。
唇に残る、軽く触れて離れていった柔らかな唇の感触。相も変わらず熱い身体。
思い出されるのは、懐かしいあの人でなく、彼の事ばかり。
「大好きですよ、ヒカル」と、かつて耳元で囁かれた優しい声を思い浮かべようとしても、それはつい先程
の静かな、けれど真剣な告白にかき消されて。
混乱のままに、ヒカルは逝ってしまった人を呼ぶ。
「佐為…」
けれど水面に映る人影が投げ込まれた小石によって乱されるように、その姿は揺らめいて乱れ、乱れた
と思うと次の瞬間には他の姿にすりかわり、
「どうして…どうして、佐為、」
目を瞑っても、耳を塞いでも、必死に名を呼んでも、瞼の裏に映るのはその人ではなく、戸惑いと混乱
に、ヒカルの頬を涙が伝う。

佐為……佐為、おまえが、見えない。
月が…明るくて……月があんまり明るく輝くから……星が、見えない。
見えないよ、佐為。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル