うたかた 6


(6)

 薬の力で一時的に体調が良くなったものの、ヒカルの熱は真夜中にぶり返した。
 加賀が熱い手を握ってやると、弱々しく握り返してくる。
「進藤、病院行くか?」
「びょーいん……ヤダ…っ」
「んなこと言ったって…。」
 苦しげに肩を上下させるヒカルをこれ以上見ていられなかった────というより、真っ赤な顔で潤んだ瞳をしてこちらを見上げてくるヒカルに、加賀は朝まで耐えきれる自信がなかった。
(…なんでオレがこんなガキ相手に……。)

 ヒカルのことは、中学時代から何かと気にはかけてきた。
 泣く子も黙る加賀、と3年の同級生ですら恐れる自分を、いとも簡単に呼び捨てにする後輩。しかし加賀はヒカルのそんな怖いもの無しな所が気に入っていたし、窮地に立たされたときに発揮する奇跡的な勝負強さにも興味があった。

 けれど
 ヒカルに惹かれていた本当の理由は────

「────さ…いっ…」
 ヒカルが小さく声を上げた。
「進藤?」
 意識が朦朧としているのか、口を薄く開けて何かうわごとを言っている。
「さい…っ…行っちゃやだ……っ」
 ヒカルのきつく瞑った瞳から、涙が次々と溢れる。
「進藤…?おい、しっかりしろ。」
 うなされるヒカルの頬を拭ってやりながら、加賀はヒカルの寝言の意味を考えていた。
(……サイ…?)
 聞き慣れぬ名に、加賀は自分の心が澱むのがわかった。



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