夜風にのせて 〜惜別〜 6


(6)


「ここを辞めて、私と軽井沢へ行ってもらいます」
ひかるは驚いて高橋を見つめる。そして夢よりも明との別れが頭をよぎり、断ろうとした。
「ごめんなさい、高橋先生。それだけはできません」
だが高橋は、ひかるが断るのを予測していたかのように封筒を手渡した。
「中を見てください。これは以前おこなったひかるさんの診断の結果です」
ひかるは封筒から紙を取り出した。それを見てひかるは愕然とする。
「大丈夫です。この都会を出てきれいな空気のところで療養していれば、すぐによくなり
ます。私が必ず治します。だからお願いします」
高橋は泪ながらに頼んだ。
ひかるはそれを呆然と見つめた。その病気は昨年ひかるの母親を死に至らせた病気だった。
それがどれだけ重い病気か、高橋に説明されなくともひかるには理解できた。
「それで…ですか。レコードを出すというのも。それでなんですね。私が死んじゃうから、
高橋先生が頼んでくださったんですね」
高橋は無言で頭を下げた。
「…わかりました」
ひかるはそう言うとふらふらと控え室を出た。
「待ってください。どちらへ行かれるのですか」
心配そうに見つめる高橋に、ひかるは安心してくださいというように微笑みかけた。
「ちょっと…。親しい友人にお別れを言ってまいります」
そう言ってひかるは姿を消した。



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