昼食編 6 - 7
(6)
「え?、あ、ハイ、頑張りマス…」
反射的に応えながら、その笑いと言い方に何となく釈然としないものを感じ、頑張ってって、何を
頑張るんだろう、と首を捻るヒカルに、
「彼、待ってるわよ。早く出ないとまた怒っちゃう。」
と、外を見て、クスクス笑いながら言う。
見ると、アキラが店の外に立っている。もしかしたら先に棋院に向かってしまっているかもしれない、
と思ってたので、アキラが待ってくれてたことが嬉しかった。
へへっと店員に笑いかけてから、勢い良く店の外に飛び出た。
「塔矢、お待たせ。いこーぜ!」
ちらりと振り返ったアキラはまだムッとした顔のまま、ヒカルを待たずにすたすたと歩き始めた。
「あ、塔矢、」
ヒカルは慌ててアキラの後を追う。
すぐに追いついてアキラの横に並び、チラッとアキラの顔を窺う。
アキラは前を見たまま、ひたすら歩き続ける。
でも、知ってるんだ。今、オレが見たの、わかってるだろう?
知ってるんだぜ。気にしてないみたいにしたって、オレのこと、気にしてるんだって。
ずっと、そうやって待っててくれたんだよな、塔矢。
追いついたと思ったら、またすぐオレを置いて先に行っちゃうけど、オレが追っかけてくるの、
ホントは待ってるんだよな。
今日、オレはやっとおまえに追いついた。おまえを捕まえた。
勝負はまだまだ、これからだ。
(7)
置いてきた盤面を思い出して、ヒカルはすっと顔を引き締めた。
「塔矢、」
先ほどまでと全く違う調子で呼びかけられて、アキラは思わず立ち止まってヒカルを見る。
「午後、負けねぇからな。」
唐突なヒカルの言葉に、一瞬呆気に取られたような顔をしたアキラは、次の瞬間、その顔に
笑みを浮かべた。
「ボクだって。」
そしてキュッと力のこもった目でヒカルを見る。
ヒカルも負けじと好戦的な笑みを浮かべてアキラを見返す。
そうしてしばし見詰め合った後に、アキラがふと顔をほころばせた。
「行こう。もう時間だ。」
「…ああ。」
柔らかな笑みに一瞬感じた胸のときめきを飲み込んで、ヒカルも歩き出す。
打ち掛けの盤面が待つ闘いの場へ、二人は肩を並べて歩いていった。
(昼食編・終わり)
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