金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 6 - 7
(6)
笑ってばかりでいつまで経っても本題に入らないヒカルに、今度はアキラの方が焦れた。
「どうしてそんな恰好をしているんだ?」
口調がきつくなるのは仕方がない。ヒカルは自分をからかって愉しんでいるのだから。
「だ〜か〜ら〜今から話すからさ…」
ヒカルはアキラの肩をポンポンと叩き、自分の隣の空いている空間を指さした。
座っているヒカルの真正面に身体をかがめて立っている自分の姿は傍目にどう映っていたのだろうか。
キスをする寸前の恋人同士に見えたかもしれない。
アキラは顔を真っ赤にして、ヒカルの横に腰を下ろした。
「そーそー目の前に立たれたままだと話しにくいじゃん…」
無邪気に笑うヒカルの頬をつねってやりたい。実際は睨んだだけだが、頭の中では、ヒカルの
柔らかい頬を思う存分捻り倒した。
「こ…こえーそんなに睨まなくてもいいじゃんか。」
「進藤!」
「わかったよぉ…言うよう…」
ヒカルは急にしおらしくなって、ことの顛末を話し始めた。
(7)
和谷の所での若手棋士の研究会。そこにヒカルは毎週顔を出している。院生時代の仲間の
伊角や本田、越智、それから足立、小宮、奈瀬達院生、森下研究会の冴木、一般からプロになった
変わり種の門脇など、メンバーは多彩だ。今日は、そのうち六人が顔を出していた。
研究会では、真剣にかつ賑やかにお互い活発な意見を交換していく。それが少々ヒートアップして、
ケンカになることもしばしばだが、それもご愛敬だ。
ケンカになる面子は大概決まっていて、ヒカル、和谷、越智などで、他のメンバーはそれを
仲裁するのに大わらわだ。
だけど、大人組は彼らが可愛くて仕方がないらしい。研究会の後はいつもお楽しみがあるのだが、
それはヒカルや和谷達にとっても大きな楽しみだった。
「ねー門脇さん。それ、ちょこっとだけ飲ませて?」
小首を傾げて、ヒカルに可愛くおねだりされると、嫌とは言えない。それでも一応、形だけは拒んでみせる。
「ダメダメ!未成年はダメ!…それに、酒に弱いんだろ?」
「でも、ちょっとだけ…ちょっとだけだから…大丈夫だよ。ね?」
両手を前ですりあわせて、ウインクされたらもうダメだ。
「しょうがないな…ちょっとだけだぞ。」
苦笑しながらヒカルに缶ビールを差し出すと、ヒカルは「ヤッター!」と、喜んで受け取った。
|