初めての体験 Aside 番外・ホワイトデー 6 - 7


(6)
 し、し、し、進藤の手作りクッキー!?ボクは、興奮して震える手で、ふたを開けた。
甘くて、香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
「……………こげてない……」
そこには、こんがりときつね色に焼き上がった、可愛らしい星やハートのクッキーが
ぎっしりと詰められていた。
「……………………………………………………………………………………」
 なんだろう……この寂寥感は……………。ボクは自分の気持ちに戸惑っていた。この
見るからに美味しそうなクッキーを前に、何故、物足りなさを感じているのだろう………。
進藤の料理の腕前がレベルアップしているのなら、それは喜ぶべきものではないのか?
それなのに、こげていないからと言って、どうして、がっかりする必要があるんだろう。

 「どうしたんだ?食べネエの?」
進藤が、クッキーを前に黙りこくったままのボクを不思議そうに覗き込んだ。
「え…た、食べるよ…食べる…」
一つを口に運んだ。………………美味しい。さっくりとした歯ごたえといい、口の中で
簡単に崩れる舌触りといい、抑えめにした甘さといい、どこをとっても申し分がない。
それなのに――――――――ふぅ………
 進藤が子犬のような汚れない瞳でボクをジッと見つめている。感想を要求しているのだ。
「美味しいよ。」
ボクは、にっこりとほほえみかけた。コレは本当のことだ。しかし、ウソをついたような気持ちに
なるのは何故だろう。
「よかったぁ!お母さんに言っとく!」
そう言って、進藤が、無邪気に笑った。ボクはというと、そのとききっと間の抜けた顔を
していたに違いない。
 ボクの視線に気づいているのかいないのか
「オレが作ってもどうせ失敗するから、お母さんに頼んだんだぁ。」
と、美味しそうにクッキーを頬張る。


(7)
 そうか!やっぱり進藤が作ったんじゃなかったんだ!どうも、気が乗らないと思ったら、
進藤が可愛い手で“こねたり”“ねったり”“丸めたり”していなかったせいなんだな。
ボクの進藤センサーに狂いはなかった!
「でも、型はオレが抜いたんだぜ。」
ふうん………この可愛い型は進藤が抜いたのか………そう思うと突然愛しくなってくる。
けれど―――――ボクは星形のクッキーを手の中で弄びながら
「でも、ボクは焦げててもいいから、進藤に作って欲しかったな……」
ぽそりと呟いた。本当に小さな呟きだったのだが、その言葉を進藤が聞きつけて、
「えぇ!でも………………じゃ、今度、がんばってみる………」
と、頬を染めてボクに負けないくらい小さな声で囁いた。
 なんだか、また、ピンクとレモン色の雰囲気が漂い始めたので、ボクは慌てて話題を変えた。
「進藤、今日のその服すごく似合っているね!」
進藤は新しいパーカーを着ていた。明るいオレンジ色は元気な進藤にぴったりだ。
「ホント?オレも気に入ってるんだぁ。」
彼はボクによく見えるように、両手を広げた。うん…本当によく似合っている。今度、それに
あう靴をプレゼントしよう。
 今日はとてもいい日だ。ケーキを幸せそうに頬張る進藤を見て、ボクはしみじみと幸せを
噛みしめた。



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