初めての体験+Aside 6 - 7
(6)
「ここだよ。」
ヒカルの案内で着いた先は、立派な日本家屋だった。社は身震いした。自分はとんでもないことを
しようとしているのではないだろうか?自分から猛獣の檻の中へ飛び込むような真似を
している。ここはアウェイ…敵の本拠地である。ここに足を踏み入れたら、二度と引き
返すことは出来ないだろう…。
――――ここを出るときは、オレはもう今のオレとちゃうかもしれへん…
さっきまでは天国だった。ヒカルと二人きりで、ちょっぴりデート気分も味わえた。
今は、門の向こうに脱衣婆が待ちかまえていても驚かない。
「どうしたんだよ?」
ヒカルが社の顔を不思議そうに覗き込んできた。
「あ…や…でかい家やなぁと思て…」
「な?でかいよな?まあ、とにかく入ろうぜ。」
そう言いながら、ヒカルはキュッと社の手を握って促した。
『ああ!手が、進藤の手が…』
小さくて柔らかいその手が、自分を人外魔境へと導いた。
(7)
「おーい、来たぞー。」
ヒカルが、家の中に向かって声をかけた。と、同時に扉が外れんばかりの勢いで引き戸が開いた。
ガシャン!
大きな音がして、填めてある硝子が割れたのかと思った。社はとっさにヒカルをかばうように
前に出た。
ヒカルはポカンと社を見上げていたが、すぐに破顔した。
天使みたいや…。
その笑顔に社は暫く見とれていた。ここに、天敵アキラがいることなど頭の中からすっかり
消え去ってしまったくらいに…。
「大丈夫だよ。ありがと、社。」
ヒカルは先に立って、社を招いた。
家の中に入ると、社はホッと息を吐いた。大阪からここまでノンストップ、しかも
散々歩いてようやく宿に到着したのだ。先程までの緊張が解けたこともあって、
「やっと、着いた…」
と、つい言ってしまった。
ヒカル達を招き入れていたアキラが、耳ざとくそれを聞き咎めた。
「やっと?(太字)」
アキラの目が鋭く光った。ヒカルは手にしていた地図を握りつぶし、慌てて家の中に
逃げ込もうとしたが、アキラに襟首を掴まれてそれは叶わなかった。
―――――しもた!?進藤のピンチや!
もし、ここに来る途中に何があったかバレたらどうなることか…!?自分が虐められるのは
ガマンできるが、ヒカルが責められるのは堪らない。
「ちょ、ちょっと、迷うてしもて……」
苦しい言い訳だ。何度もここに来ているヒカルが、迷う訳なんてない…。
もぉちょい、エエ理由が思いつかんのか?オレは…
情けなくて涙が出そうだ。
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