魔境初?トーマスが報われている小説(タイトル無し) 6 - 7
(6)
触りあいをしたときには、ふたりとも乱れたとはいえ服を着ていた。
だけど今回は、そうもいかない。さっき風呂からあがって着たばかりのスェットの上下を、和谷が脱がしていく。
手つきはお世辞にも上手いとは言えなかった。もっとも手馴れてるほうが問題なんだけどさ。
それでもスェットの上は前開きのファスナー、下はウエストゴムだから、あっという間にトランクス1枚の姿に剥かれてしまった。
そんな俺を、和谷がじっと見つめる。和谷はまだ、服を上下とも完全に身につけたままだった。
「なんだよ?」
恥ずかしくって、ついつい声が尖ってしまう。だけど和谷は気にした様子もなくて、挙句にとんでもないことを言った。
「いや……お前の乳首って、やらしいよな」
「なっ! なに言ってんだよ!!」
「だってピンク色の乳首なんて、ポルノ小説のなかだけのものかと思ってたし。」
思わず目を自分の胸に落とした。そこには平たくて、お情け程度にふたつの突起があるだけ。
普通、だと思う。その…和谷の言うようにピンク色なわけじゃない。
ただちょっと他人よりも色素が薄くて、薄茶色というかベージュっていう表現が正しい。
だけど今は血が集まってて、皮膚の下の血の色が透けて見えそうだった。
「なぁ、プールの授業とか大丈夫だったか? 変なことされなかった?」
「なにもないに決まってんだろ! それより和谷も脱げよっ!!」
和谷は笑って、今度はスムーズに自分の服を脱ぎだした。ついでに部屋の電気も消した。
そっか。すっかり電気のことなんて忘れてたけど、こんな明るいなかでやろうとするから話が変な方向に進むんだよな。
ぱさりとシャツを落とした和谷の上半身の影は意外に大きくて、ちょっとだけ俺は震えた。
これは、そう、武者震い。
(7)
ふたりでベッドに寝転んだ後も、和谷はしばらくの間は大人しかった。
大人しかったといっても舌は俺の口の中やら耳の中やら首筋やら這いまわっていて、
もしかして和谷に食べられるんじゃないかと思ってしまったほどだけど。
……あ、こういうのも「食べられる」って言うのか。
自分の発想に真っ赤になってしまったのを和谷に気づかれなかったのには、ホッとした。
和谷はまだ自分の位置取りを決めかねているみたいだった。
俺に押しつぶしてしまわないように気を遣ってくれているらしい。
それは嬉しいんだけど、ベッドの中で和谷の身体が動くときに俺の太腿のあたりに硬いものが当たるのがたまらなかった。
初めは和谷の足かな? って思ってたけど、それってアレだよな。きっと。
和谷が俺の骨と皮ばっかりの貧弱な身体でも欲情してくれるってのは、けっこう凄いことだと思うけど。
だけど、怖いんだよ。本当にそんな硬いものを、俺の身体に挿れるのかって。
「ひっ……!」
思わず出した声は、裏返って甲高くて、なんだか媚びてるみたいで。
必死に抑えようとしたけど、止められない。
皺の寄っているシーツを噛んで声を殺そうとしても、和谷がそれを許してくれない。
「進藤の声、すっげぇイイ」
おまけに耳元でそんなことまで囁かれる。普段は凄くいいヤツなのに、こんなときは意地悪だ。
聞きたくないって意味を込めて頭を振っても、和谷の声は追いかけてくる。
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