白河夜船 6 - 8
(6)
「あっ・・・・・はう・・・・・・・ぅあ・・・ああ・・・・・」
「とっ、塔矢オレいきそう」
アキラの中にいるヒカルの動きが一段と激しくなり、やや乱暴に強く打ちつけ
ながら同時にアキラのものを手で擦りあげる。
「あああぅうああっ―――!」
ヒカルの腰・手の動きが起爆剤となり、アキラの背筋に電流が一気に駆け抜け
全身が強張り、体をビクビクと震わせながら白い熱を撒き散らした。
力の抜けたアキラの四肢をヒカルは抱き寄せ、アキラの内へ自分の体内に溜め
込んだの熱を全て注ぎ込む。
ヒカルは熱を放ち終えた体をアキラの白い肢体の上に重ね、一時の余韻を楽し
んでいた。
そして自分の下にいるアキラの顔を覗くと、アキラも薄っすらと目を開いて、
ヒカルをじっと見つめていた。まだ顔は赤く蒸気し、焦点の定まらない瞳、
肩で息をする姿には底知れない妖艶さが色濃く浮かび上がる。
「オマエ、本当にエッチの最中は別人だな」
「自分でも・・・・・そう思うよ。
日常の全てのしがらみを解き放てる唯一の時間だから。
そんなボクをキミは嫌う?」
「いや・・・・・・、可愛いと思うよ」
―――オレしかこんな塔矢を見れないというのは、マジでオイシイよな。
そんな優越感がヒカルの心の隅々に行き渡り、上機嫌になる。
「男のボクに可愛いはないだろう」
「そうか? オレは思ったままのことを言ったんだけど。
塔矢、喉渇かねえか」
ヒカルは下着を身に付けベッドを離れ、鼻歌を歌いながら部屋に設置されて
いる冷蔵庫を開けながらアキラに尋ねた。
「ボクは鳥龍茶がいい」
「OK! オレはっと・・・・・・アクエリアスに決めた」
(7)
飲み物を両手に持ちながら、ヒカルは再びベッドの中へ潜り込んだ。
「ホラ烏龍茶」
「ありがとう」
ヒカルから飲み物を受け取ると、アキラは喉をならしながら烏龍茶を一気に
流し込んだ。
「うわあ〜、スゲエ飲みっぷり!」
「ものすごく喉渇いていたしね」
そんなたわいのない話を交わしながら過ごすのが、アキラにとって一番の
心休まる空間で、それはヒカルにも同じ事が言えた。
二人が寝具に横たわりながら話すことは、碁や家族、そして自分達の将来の事が多かった。
だが正直、将来の展望は若干15才の二人には未知の事であり、毎日を懸命に
手探りで碁を打ち続けるしか道は開かないのは分かりきっている事実だった。
碁のプロ棋士の多くはこう語る。
『所詮、生涯の内で最高の敵は他ならぬ自分自身だ。
絶望と光明との果てしない繰り返しに決して負けずに前向きに碁を
打てるかだ』と。
「昔読んだ本でこんなことが書いてあったんだ。
人が生まれる時、一つの魂が二つに別れて生を設ける。
元は一つであった二人の人間は、一つになるべく地上で旅を続けるんだ。
完全な魂になるために。
自分の半身を探すとも書いてあったかな。
だから人が不完全なのは当たり前だ・・・そんな内容だったと思ったんだけど。
―――進藤?」
ヒカルは寝息をたて、すでに深い夢の中へ沈んでいた。
「ふーん、そうなんだ・・・・・・ムニャムニャ」
(8)
寝ながらでもアキラの話を夢うつつ聞いていたのか、ヒカルはそれだけ言うと
大きな欠伸を一つし、本格的な眠りに入っていった。
そんなヒカルの様子に思わずアキラは微笑んだ。
「おやすみ進藤」
ボクらはこれからも長い旅を続けるだろう。
途中で風が吹くかもしれない。
太陽が雲に遮られて、暗闇の中へもがくかもしれない。
雨が降り続き、川が氾濫して路を塞ぐかもしれない。
路の上に雪が積もって、行き先を見失ってしまうかもしれない。
これからもいろんなことが嵐のようにボク達に訪れるだろう。
それでも、ボクの魂の行きつく先にはキミがいて欲しい。
やがてアキラにも強い眠気が沸き、アキラはヒカルのそばへ体を寄せた。
心地よい暖かさに思わず笑みがこぼれ、明日の事を頭の片隅に置きながら
夜の静けさに身を預けた。
(終)
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