枸杞の実 第三章 6 - 8


(6)
ひっそりとした階段を上っていく
薄暗く、普段は滅多に人もこない
ひんやりとした壁に手を這わせると、心地いい手触りがした
浮足だった心が不思議と落ち着いてくる気がする
一つづつ階段を上がる
濃い緑色のドアにたどり着く。そこは明かりは無く、昼間だというのにひどく暗い
ドアノブに手を掛け、カチャリと音を立てた
その時だった

「和谷っ!」
ドア越しに聞こえたのは聞き覚えのある声
心臓が跳ね上がる
離しかけたノブをおそるおそる、ゆっくりと引いてみる

思わず、息を呑んだ

僅かな隙間から見えるのは和谷の少し丸まった背中
そして抱かれるようにキスをされているのは……

驚いた。あまりの光景に身体がわなないていた
屋上の入口、まさにボクの眼前から、あまり離れていない金網に身体を預けるようにして
二人はキスをしている
つと和谷が身体を離した
はぁはぁと荒い息を付くのは―――
ボクがあの顔を見間違えるはずがない

紛れも無く進藤だった
しばし見つめあう二人に、またあのリズムで、ドクドクと心臓が波打つ
「進藤…。好きだ。お前が何より大事だ…オレ、だから…」

和谷の言葉を最後まで聞くことなく、ボクはそっと重い扉を閉めた
身体全体が心臓になったような感じがする
冷たい汗が背中を伝い落ちた
階段の手摺りに掴まりながら、ゆっくりと降りていく
冷たい絶望に閉ざされた頭の中を、闇を過ぎる影のように言葉が流れた
頭の中で幾度となくそれを反芻する
ボクは直視させられてしまった事実に打ちのめされそうになっていた
フロアにつくと一気に虚脱感が胸を襲う
階段を背にもたれ掛かって、掌で顔を覆い瞼を閉じた
予想していたはずの光景は目にしてみると想像以上にボクにショックを与えた
――やっぱりあの二人は…
そうして胸の中を吹く、冷え冷えとした風を噛み締めていると、誰かが降りて来る気配がした
一人だけの足音。果たしてどちらが降りてくるのだろう…

「塔矢…」
振り向くと、少し驚いた顔をした進藤だった
そのままボクの隣まで降りて来る
「どうしたんだよオマエ。気分でも悪いのか?」
軽く首を傾げて聞いてきた顔の瞳は潤んでいる
一目で、首筋の朱く浮き出た痣をみつけた
進藤の潤む両目を見据える
口にだしてしまいたかった
『本当にキミは心配なんかしているのか?そんなふうに欲情に瞳を濡らしている、キミが?』と
『ボクにそんな態度をとるのはヤメロ!』と
そう考えた途端、腹の底からどす黒い感情込み上げてきた
なんと表現したらいいのか分からない
ボクはただただ凶暴なうねりに身をまかせてしまいたかった
なにもかもが、音をたてて崩れていく
「別になんでもない。」
そう言って目をそらす
「オマエなんでもないっ――」
「それよりも今度の土曜に家に来ないか?」
「えっ?な、なんだよ突然。」
言葉を遮ってのボクの提案に、面食らったって表情
予想してなかった反応に眉をしかめてるふうな声音
「じゃあ、十時はどうかな?」
「いいけど…オマエんち分かんねぇよ、オレ。」
進藤ははばつが悪そうに一差し指で頬を掻いた
「そうか。なら駅前に十時でいいかな」
「うん。…分かった、十時な…。」
まだ腑に落ち無い様子の進藤に、おそらく憤怒の相よりも数段は恐ろしい笑みで、
言い含めるように話してやる
「やっぱり君と碁が打ちたいんだ。君と。今度の土日は家にはボクひとりになるから。
何なら親御さんに泊まってくるって言ってきたらどうかな?」
「マジ!?あ…でも…」
一瞬、ぱぁっと華やいだ顔がまた翳る
「どうかした?やっぱりボクと手合わせなんかしたくない?」
(誰か以外の家にいくのがマズイとでも?それとも本能が君に行くなと告げている…とか?)

「そ、そんな事ねーよ。じゃ十時に駅な」
ムキになって言い返す進藤がかわいかった
「あぁ、迎えにいくから。」
その進藤がボクの手によってめちゃくちゃになると思うとゾクリと背筋が痺れた
「さんきゅ。じゃあな」
無邪気な顔でそう言い残し、また階段を降りて行く進藤の後ろ姿を見つめる
見つめながらボクは、暗澹たる思いで約束の日の事を考えていた
さて―――どうする?
しかし我ながら口の上手さに舌を巻く
大人達ばかりの世界に身を置くために、必然的に身についたものなのだろうか

踵を返し、エレベーターのボタンを押す
ひんやりとした壁に触れても、もうボクの気持ちは静まることはなかった


(7)
カラカラカラと玄関の引き戸をあける。
脇に植えられた竹林がさよさよと擦れるのと重なって、辺りに心地のよい音が響いた。
「さ、入って」
後ろを振り返るアキラの切れ長で涼しげな目許が、にこりとヒカルに微笑みかける。
「お、おじゃましまーす…」
かわいく首を竦めた進藤が、恐る恐る足を踏み入れたのは、駅からさほど遠くないボクの家。
走ってでもきたのか、頬をピンク色に上気させた進藤が遅れてきてから、ボク達は
以前のように他愛のない話をしながら家まで歩いてきた。
だけどボクの頭の中は、絶対に、断じて進藤に考えている事を悟られないように、
バレてしまわないように、と言うことでいっぱいだった。
きっと今日のボクは今までのどんな自分よりも饒舌だっただろうと思う。

「やっぱでけー家だなー。さすが元名人の家だぜ。なんてったって五冠だもんなぁ」
彼は口を半開きにして見回してから、そう呟いた。
奥の部屋へ案内される間も、ずっと落ち着き無くきょろきょろ家中を見回している。
前を歩くボクの表情が、固く強張っていたのにも気が付かないくらいに、なんだか浮かれていた。

「ハイ、これに座って。悪いんだけど、ちょっとここで待っててくれるかな?
今飲物をもってくるから」
「んー」
部屋の中央に置いた座布団に座りながら、答えた進藤はウワの空で、
うかがった横顔は熱心に眉を寄せている。
彼が見つめる先に目を遣った。
何かと思えば、どうやら彼の興味を引いたのはベットの隣に寄せておいた碁盤らしかった。

「どうかした?」
襖に手をかけて今にもでていこうとしていたアキラが不思議そうに尋ねる。
「もしかして…これって本カヤ?」
碁盤の傍まで来て覗き込むようにして尋ねたヒカルに、アキラは少しばかり
驚きの表情を浮かべた。
「へぇ、よく分かったね」
アキラの言った言葉に得意げにヒカルが「まぁな」と胸を張った。
「ハハ」
軽く笑い、部屋を出たアキラの視界の端に一瞬寂しそうな顔をしたヒカルが映る。
気付きはしたが、今のアキラにはそんな事について頭を働かせる余裕は無かった。
食器棚の奥から取り出した薬の封を細い指先が破り、中の粉末を用意しておいた片方の烏龍茶にいれる。
アキラの脳裏には緒方のクセのある顔が浮かんでいた。
この睡眠薬を手に入れるため、アキラはわざわざ緒方の家まで押し掛けていたのだった。
緒方はアキラの予想に反して理由のようなものは何も聞く事はなく、薬は易々とアキラの手に渡った。
しかし、その時の緒方の表情が終日アキラの頭からなぜか離れなかったのだ。
きっと気付いている。
そうも感じる半面、もはや緒方さんにどう思われようとよくなっている自分もいる。
別に構いはしない。
進藤さえいれば、それで。
マドラーで丁寧に粉末を溶かす。
乳糖に紛れるように、ごく僅かに混入しているはずのその薬が、烏龍茶の中でくるくると回り、
やがて見えなくなった。
アキラはこの静かな胸の高鳴りを振り払おうと、胸に拳を当てひとつ深呼吸をした。

「はい。烏龍茶でよかった?」
「おっサンキュー!」ヒカルが無邪気な笑顔でグラスを受け取り、口をつける。
ごくごくと喉を鳴らしながら半分くらい中の液体を流し込むその様子を、アキラは横目で静かに見守っていた。
「ぷはぁっ!うめェー!生き返ったぜー」
まるで何かのCMのような文句を言うヒカル。
アキラがヒカルの向かい側にしなやかな腰を下ろした。
「さぁ打とうぜ。負けねーからな!お願いしまーす、と」
「お願いします」
ヒカルがニギり、黒をもつことになった。
パチンパチンと二人が石を打つ音だけが部屋に響く。
布石から激しい攻防を繰り返し、さて中盤に差し掛かろうかというところで、
「なんか、オマエと打つの久しぶりだよなぁ?」
としみじみとした顔でヒカルが話しかけた。
だがアキラは口を開こうとはせず、その瞳はただ真っ直ぐ盤上に注がれたままだった。
「オマエさぁ、相槌くらいうてよ」
ヒカルはぷぅっと頬を膨らませてから「ふぁあ」と小さなあくびをした。
アキラは髪を揺らし、パシッと鋭い音と共に黒の急所を突いた。
そして碁盤に目を落としたまま静かに言い放つ。
「見たよ。キミが和谷とキスしてるところ」
瞬間、だらしなくあくびしていたヒカルの顔がすぅっと青ざめた。
鯉のように口をぱくぱくとさせて、ごくりと唾を呑み込んむ。
「は!?い、いきなりなに言ってんだよ…!」
目が泳いでいるヒカルを一瞥して、アキラは整った顔を歪ませながら嘲る調子でつづける。
「いつも屋上でしてたんだ?」
「ばっ!ちがう!」
ヒカルが勢い良く碁盤に手をつき身を乗りだす。
そのせいで石が崩れ、四方に飛び散った。
アキラの目を見つめて「だからアレは」と言いかけて、気がついた。
以前のようにしっかりと自分を見つめ返してくれないアキラに。
オマエこそ…なんなんだよ…
ヒカルが顔を背け苦々しく呟いた。
「オマエに関係ねぇだろ…」
そう吐き捨てたとたんアキラの両手がヒカルの頭を掴んだ。
自らも身を乗り出すようにして深く口づける。
引き寄せ抱きすくめられて、ヒカルの身体がしなやかに反った。
電撃のような熱さが、アキラが抱いている腰や淫猥にねめまわされる唇から全身へと走り、
ヒカルのなかで何かが燃え上がった。
痺れる頭をいやいやと首を振って、アキラの唇から逃れる。
「なっ、なんかからだが重いっ…」
それは、悶えるように情欲を押し付けてくる、アキラの熱い体躯のせいだけではなかった。
ヒカルの腰に回された腕が離れていく。
「キミはボクのものだ」
アキラがグッとヒカルの両肩を掴む。
言葉のでないヒカルをギラギラと睨んで、アキラは白い犬歯を剥き出しにした。
「キミはあいつのなんかじゃない!ボクだけを見てればいいんだ!」
表情も目の色も声音も、凄まじいの一言につきる怒りを叩きつけられて、ヒカルはさらに硬直した。
一瞬で、ヒカルは完全にアキラの剣幕に呑まれていく。
指が食い込む程強く掴まれた肩が解放され、持ち上げられて軽く眩暈がした。


(8)
アキラはヒカルを乱暴に抱きすくめてベットに押し倒した。
「なにすんだよ!放せっ!」
「キミはボクのものだ!!」
もがいてベットから逃げようとする華奢な躯に馬乗りにまたがった。
「ボクのものなんだ!他の誰にも指一本触れさせはしないッ!」
ボクには関係無いだと!?あいつとキスしたことが!?
進藤はボクのものなのに!!

「い、いやだっ!」
ヒカルはアキラの剣幕に一瞬怯みながらも、拒絶を口にする。
力の入らない手足を精一杯ばたつかせて必死に抵抗している。
「やだ!塔矢やめろォッ!」
「黙れっ!」
「――っ!」
パァンという音がアキラの部屋に響いた。
ヒカルの顔が苦痛に歪む。
あらがい、わめくヒカルに言葉と同時にとっさに手まで出ていた。
自分のしたことを認識するより早く、手の甲で叩いたヒカルの頬の感触が、余計にアキラを狂わせた。
「やぁ、やめろっ」
暴れるヒカルを押さえ付けて、ヒカルのシャツに手を掛ける。
力を篭めて、ブチブチとボタンがちぎれ飛ぶ音を耳に、そのままいっきに前を引きあけてやって喚いた。
「和谷になんて言われた!?いつもどんな風にキスされていた!?この身体をどうやって抱かれて
いたんだ!?」
アキラは湧き上がる感情をそのまま言葉にしてぶつけていた。
そこには理性というものなど存在しなかった。
愛すれば愛するほど反動は強くなってしまうように。
「バッ、何言ってんだよオマエ!?や、やだぁっ!やめてくれっ!」
アキラはヒカルに上体重ね、手で頭を固定するとうるさくまくしたてる唇を乱暴に奪った。
「んんっ」
苦しいのかヒカルが弱々しくアキラの髪を引っ張る。
柔らかな唇に力任せに吸い付いて、いやがるヒカルの顎を掴んでむりやり歯列を開かせた。
己の欲のままに口腔を嘗め回し、逃げようとする舌を追い、絡めとる。
「んっ」
部屋に響く二人の荒い息がますます興奮を高めていく。アキラがくしゃくしゃとヒカルの頭をまさぐった。
頭の奥が痺れるような感覚。
ヒカルの苦しげな喘ぎ声がアキラにより一層ヒカルを愛おしく感じさせた。
もっと。もっと。
欲求はとどまる事を知らないようにアキラを急かす。
両手でヒカルの頭を軽く持ち上げ、舌を喉の奥まで差し込む。
「うぐッ」
ヒカルが苦しそうにくぐもった声をあげた。
「んっんっ」
執拗に責めたてるとヒカルの肢体がこまかく震えだし、アキラの髪の毛を引っ張っていた手も、
やがて力無くベットに落ちた。
存分にヒカルを味わってから、ようやくアキラが顔を離した。
ヒカルの様子を見ると、薄く開けられた瞳は淫猥に濡れ、口の端からは唾液が
一筋零れていた。
とても愛おしかった。
ようやくヒカルを手に入れたと感じた。
もう誰にも、誰にもヒカルを渡さないと思った。
「そう…いい子だね」
アキラは汗ばんだヒカルの前髪をかきあげて、もう抵抗する気力もないのか、すっかりおとなしくなった
ヒカルの華奢な首筋に顔を埋める。
しっとりとした肌に唇を寄せ所有の証をいくつも刻んでゆく。
ヒカルの頬に宛てがわれていたアキラの手は撫でるように下りてゆき、ヒカルの滑らかな胸に手を這わせた。
胸の突起にはふれずに肌の質感を楽しむかのように円を描くように、優しくなでる。
「っ」
「声だしなよ」
「だ、れが‥」
必死に堪えようとしているヒカルの喘ぎが聞きたくて、親指で待ち侘びてピンク色をしたそこを
クニクニと軽く刺激してやった。
「ふぅんっ」
するとヒカルは頬を桜色に染めて鼻にかかった声をあげた。
切なく眉を寄せて、アキラの下で、その愛撫に身体をくねらさせ身悶えた。
「進藤ここが好きなんだ‥?」
「ちがうっ」
身体をずらし、白い肌に微かに浮き上がった突起物をねろりと舐めた。丹念に舌先でつついて、いじっていく。
幼い乳首はアキラの舌先での愛撫に反応してぷつんと固くなった。
「はぁっ」
「気持ちいいの進藤?ホラ。」
ヒカルの反応が楽しくなって、もうはっきりと形をなした乳首をギュッと強く摘んだ。
「あっ!やっやだっ!もうやめてよ!」



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