通過儀礼 覚醒 6 - 9


(6)
「ち…違うもん。ただ…あんまり痛くなくなったから…」
アキラは顔を赤らめて何とかごまかした。
「ふ〜ん」
たかしは疑るような目つきで、ペッタリと貼られた湿布の上からアキラの珍子の輪郭を何
度もなぞった。
「アン! や…やめてよ、たかしくん!」
「やっぱり気持ちいいんじゃん」
たかしはそう言うと、アキラの声にあわせて珍子を行き来する手に力を入れた。
アキラはその年齢では考えられないほど甘く色っぽい声でないた。だがたかしに珍子をな
でられることが気持ちいいとばれた恥ずかしさと自分を抑えきれない悔しさに、アキラは
たかしの手を振り払った。
「たかしくんのエッチ!」
アキラはそう言うとパンツとズボンを履いた。
「なんだよ、それ! エッチなのはアキラくんの方だろ」
罵られて腹が立ったたかしはアキラの股間をぎゅっと握った。
「やん、ヤダ…はなして」
モニョモニョと股間を動きまわる指を感じつつ、アキラは唇を噛んで我慢した。
「ほら、チンチンさわられて気持ちいいんだろ。やっぱりエッチなんじゃん」
たかしはいたずらっぽく言った。
「だって…だって…、さわってきたのたかしくんからでしょ。ボク…それまで気持ちいい
って思ったことないもん。たかしくんのせいだもん」
そう言い切ると、アキラはついに泣き出してしまった。それにたかしはあわてる。
「ごめん。泣かないでよ、アキラくん」
たかしはおかっぱ頭をなでた。
アキラはわかっていた。それが言い訳であることも、泣いてそれをごまかそうとしている
自分にも。だがそれでも自分に優しく接するたかしに、申し訳なくなったアキラはこの場
から逃げたくなった。
「もうボク帰る」
アキラはそう言って部屋を飛び出していった。


(7)
「ただいま」
アキラは泣いたあとがわからないように庭で顔を洗った後、家へ入った。
「あら、随分早かったわね」
夕飯のいい匂いをさせながら明子が出迎える。
「まだお夕飯には早いから、お父さんに一局お願いしたら」
「…ううん。お風呂に入る」
アキラはそう言うと風呂場へ行こうとした。
「アキラ、お帰りなさい」
廊下の奥からヌッと出てきた行洋にアキラは驚く。
「わあっ! お…おとうさん。ただいま」
行洋はゆっくりとアキラに近づく。
「良い子だ。ちゃんとお父さんとの約束を守ったね」
アキラの頭をなでながら行洋は笑った。
「それじゃあ、お父さんと一緒にお風呂に入ろうか」
いつものことなのでアキラは素直に頷こうとした。だが股間に湿布が貼ってあることを思
い出し、アキラは焦った。
「おとうさん、ボクもう年長さんだよ。一人でお風呂入るよ」
アキラはそう言うと風呂場へ逃げようとした。だが一緒に入る気でいた行洋は息子の突然
の拒否に納得がいかず、アキラを抱き上げた。
「まだ年長さんだ。それにアキラは今まで一人でお風呂に入ったことないだろう。何かあ
ったら大変だ。…ん? 湿布のようなにおいがするな」
抱き上げたことでアキラの股間から香る湿布の匂いを間近に感じた行洋は、どこからそれ
が匂うのかアキラの体をかいだ。
「やめて! おとうさんのエッチ!」
アキラはそう言って行洋の頭をポカスカ叩くと、腕から飛び降りて風呂場に駆け込んだ。
「…お、お父さんの…エッ…チ………」
その言葉にショックを受けた行洋はその場に凍りついた。
「あらあら。とうとう嫌われてしまいましたね」
明子は嫌味っぽくクスッと笑うと、台所へ戻っていった。


(8)
父親が追ってこないことを確認したアキラは、ズボンとパンツを脱いでさっさと湿布をは
がして捨てた。そして風呂へ入ると、湿布の匂いがとれるよう何度もそこを洗った。
ふと自分でそこをさすっても気持ちいいのか試してみたくなった。アキラはそっと珍子を
なでる。気持ちいいには気持ちいいのだが、たかしにやってもらったような快感までには
至らない。
「…たかしくん、ごめんね。悪いのはボクの方だよ」
アキラはたかしの手を思い出し、何度も珍子をなでた。


(9)
「アキラさん、そろそろご飯にするからお父さん呼んでくれる?」
お風呂をでたアキラは、明子に言われて行洋の部屋へ行った。
「おとうさんごはんだよ」
だが行洋はそこにはいなかった。部屋にはまだ途中の碁盤が置いてある。不思議に思い、
アキラは明子のところへ戻った。
「おかあさん、おとうさんいないよ?」
「あら、いない? おかしいわね。どこへ行ったのかしら。トイレとかも探してくれる?」
そう言われ、アキラは廊下に行った。
日もすっかり暮れ、廊下は真っ暗だった。アキラは背伸びをして廊下の電気をつける。す
ると突然大きな物体が現れて、アキラは驚いた。
「きゃっ! …おとうさん? どうしたの?」
アキラは行洋のそばへ駆け寄る。
アキラにお風呂に一緒に入ることを拒否され、エッチとまで言われた行洋は、ショックの
あまりその場にずっと立ち尽くしていたのだった。
「おとうさん、ごはんだよ」
アキラは訝しげに行洋を見上げて手を握った。
「あ、ああ。わかった」
行洋はそれだけ言うと食卓へと向かった。
アキラにはその背中が何故だかいつもよりも小さく弱々しく見えた。
「どうしたんだろう、おとうさん」
幼いアキラにはそれが何故かはわからなかった。


                         覚醒  −終−



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