heat capacity 6 - 9


(6)
ただ獣のように呻いて、啼くだけしか出来ずに進藤は僕の腕の中で震えている。
進藤の精液でぬめった手をそのまま上半身に皮膚を伝って滑らせた。
シャツが引っ掛かって捲れ上がるが気にせずに僕は狙っていた場所に正確な位置制御で指をあてる。
肩の下でひゅっと息を飲む音が聞こえた。
細かいリズムを刻んで腰を使う度に、胸に添えた指が小さな果実の先端をほんの僅かな刺激で掠める。進藤は僕の服を握り締めて、襲いくる快感の波に必死に耐えているようだった。
指先に触れる突起は充分に堅くなり、その存在を明確にしている。きっとこの布一枚を捲りあげれば、充血して色付いた可愛らしいそれを見る事ができるだろう。
「もー…やだ……」
我慢出来なくなったのか、進藤がぐすぐすと鼻を鳴らしながら、僕を見つめた。目からは透明の真珠のような涙が止めどなく頬を滑り落ちる。
小さく開いた口からも同様に唾液が唇から顎に掛けて淫微なラインを描いていた。
「…はやく、……っ」
「イかせて欲しいの?」
こくこくと小さく頷く。全く、こんな時までなんて可愛いんだろうね、進藤。
こういう進藤を知っているのは僕だけだと思うと目眩がする程に幸せだ。
だからこそ、他の物に心を奪われる彼が愛しさと同じ分憎い。
僕は先程までとは打って変って彼を思う様に激しく揺さぶった。
焦らすのも手段の一つだが、他にもやり方はある。
最奥まで突き上げて、入口付近まで引き抜く。狭道は既に身体に染み込んだ快感をよりよく得られる方法をそのままに実践し、収縮を繰り返した。
締め付け逃がさないようにし、柔らかく迎え入れる。ただそれだけの動きが、僕にとてつもない歓喜を与えた。
そして、僕が内壁を擦りながら貫くという行為が、進藤の心身の敏感な部分に触れている事もまた、僕の心に大きな充足感を齎(もたら)した。
既に相当に昂っていた進藤は、僕の何度目かの突上げにあっさりと欲望を吐き出した。
だが、僕は動きを止めない。
「とう、や…っ、…ま…まだ……ダ、…メ…ッ、た…のむ、から……っ」
進藤の懇願は、僕の耳を通り過ぎただけだった。


(7)
あれから進藤は何度達しただろう。
すすり泣きに近い状態で、今は物も言わずに律動に身を任せていた。言わないのではなくて、言えないだけかも知れないが。
肌に触れる空気さえ進藤の躯を蝕むかのように、何度も大きく震える。多分、彼自身の呼吸さえも快楽の呼び水と化しているだろう。
「そんなにイイ? 君は今日もう何回イったと思う?」
「〜〜〜〜っ」
僕の問いに進藤は嫌がるよう首を打ち振った。
薄く笑って、進藤の弱い部分を断続的に攻め立てた。
「……っあ、もうやダ……やだ…って、ば……っ」
先程から何度も繰り返され、もはや内容を伝えるという意味はなしていない言葉はとてつもない甘さを含んでいた。
まるで芳純な蜜のように蕩け、僕の聴覚にひたひたと染み込んでくる。
「自分から誘っておいて、もう駄目だなんて、許さないよ」
僕の声が聞こえているのかいないのか、進藤は背中を弓なりに反らしふるふると震える。
すっと顎を反らせた瞬間に眦に光っていたものが顳かみへと流れた。
目を閉じて、ただ貪欲に快楽を貪る様とは裏腹に、その姿は美しかった。
「ふぁ…そ、こ……ん……っ…」
「ここ?」
言ってそこを狭い内部から圧迫する。と同時に丁度そこに近い部分を外からも刺激した。
「ふぁ、ぁああ…ぁ…」
進藤が再び熱を解放しようとしたその時。
僕は既にはち切れんばかりに怒張したそれをきつく握り締めた。
「……っつ!」
進藤が痛みと驚きと困惑に目を見開いて、僕を見た。彼の繰り返す呼吸は依然として浅かったが、まるで状況を探るかのように静かでゆっくりとしている。
「今、誰の事を考えていた?」
僕が進藤の目を見て問いかけると、彼は射竦められたように一瞬びくりと震えて固まった。瞳は、困惑の色を滲ませて揺れていた。


(8)
「お、……オマエの事だよ、決まってるだろ…」
言いながら視線を外す。浅い呼吸を繰り返す唇は微かに震えていた。彼は往々にして解り易過ぎる。
「嘘をつくな。今だけじゃない、さっきからずっとだ……キミは対局の事を思い出していただろう」
更に根元を強く握る。
「社の事を、思い出していたんだろう……?」
「や…、ぃた、イタい…っ、やめ…っ、塔…矢っ……!」
「ボクが気付かないとでも思ったのか?」
笑いが込み上げる。何が可笑しいのかは自分でもよく解らなかった。嘲笑のように冷ややかなそれは、もしかしたら進藤の心を繋ぎ止めておく事が出来ない自分に対してのものかも知れない。心が、渇いている。
「進藤……」
余りの痛みに身体を固く竦めていた進藤の身体が一瞬震え、ゆっくりと面を上げる。
「ボクを見ろよ」
「……とうや」
「ボクだけを見ろ……っ」
言って、彼の反応を見ずに口付けた。荒々しいキスだった。
やがて進藤は無意識のうちに手を僕の首に絡ませた。陶酔している。情欲に溺れた声、吐息がそれを物語っている。僕が怒っている事を解っていて、それでもなお、快楽に溺れるのだ、彼は。
「……っっあ!」
進藤が急に襲い掛かった痛みに驚いて、口を離した。
進藤の欲望の徴、その根元に程近い場所に赤い紐が食い込んでいた。
「塔矢、何を……っ」
「何って。キミを気持ち良くしてあげてるんじゃないか。キミはこんな事をされても感じるんだろ?」
「……!!」
言って、紐を更にきつく引っ張り、そのまま結ぶ。進藤が手を下肢に伸ばそうとするが、その手首を捕らえてそれを許さない。
「塔矢!」
進藤も必死だ。なんとか僕の手を解こうとするが、何度も絶頂に登り詰めた身体には殆ど力が残っていない。それでも、諦めずに彼は腕を振り回し続けた。
やがて、その腕から力が抜け、彼は僕を強く睨み付けると容赦なく首筋に噛み付いた。じんわりと痛みが滲んでくる。そして融け出るような温かさ。
何故か僕は酷く安心した。


(9)
僕は再度進藤の腕を首に回させると、彼の膝裏を腕に掛け片足を高く持ち上げる。
僕が膝を若干曲げて身体を低くしているのでそれほど辛い体勢ではない筈だ。けれど、片足だけの不安定な状態に、進藤は反射的に顔をあげた。そして、僕はその不安げな表情を視界の隅に捕らえながら、残る足を払った。
「ぅわ……っ!」
彼は驚いて咄嗟に僕にしがみついたが、勿論ながら彼の身体が地面に落ちる事はなかった。払った方の足ももう一方と同様、畳み込むように僕の腕に掛けられている。
身体を支えるものがない恐怖と下肢に疼く痛みに、進藤はただ僕にしがみつくしかなかった。何度かその身体を揺らすと、彼はしがみつく腕に一層の力を加えた。
僕は決して軽くはない進藤の身体を持ち上げて、そして下ろす。下ろす時は殆ど重力任せだ。あまり繰り返すと僕の腕の方が参りそうだが、もう散々イった後の進藤を追い上げるのにそう時間は掛からないだろう。
やがて、進藤は僕の思惑通りに紅潮した身体を震わせていた。正気を失ったようにその頭を打ち振って啼く。
「と、塔矢……塔、矢ぁ……っ!」
何度も僕の名前を呼ぶ。そうだ、僕以外の誰かとの対局で感じるなんて、許さない。僕が抱いている時に別の人間の事を考えるなんてもってのほかだ。
少なくともその時、進藤は全身で僕を感じていた。視覚も聴覚も嗅覚も全ての神経が交感していた。そして僕もまた、どんな感覚も逃すまいと全身の神経を研ぎ澄ませた。
進藤は達するその瞬間まで僕の名前を叫び続けていた。
熱が醒めてみると酷く決まりが悪かった。いつの間にか解けて地面に落ちていた赤い紐が空間の間抜けさを妙に引き立てている。
お互いに背を向けて脱いだ衣服を着ていると、不意に背後で進藤が笑い出した。
「……なんだ」
「いや、こんなところでなにやってたんだろーって思ったら可笑しくなってさぁ」
答える言葉が見つからない。
「今日さ、オマエん家行ってもいい?」
「別にいいけど……」
両親は今日も留守だ。
「オマエとも一局打ちたいな。その後また欲しくなるかも知れないけど」
彼は込み上げる笑いを堪えられないように、まだくつくつと笑っている。
「まだ足りないのか?」
「違うよ。比熱が低いんだ、多分普通の人より」
「……淫乱」
精一杯悪態をついたつもりだった。
だが、彼は僕を振り返ってあっさりと言った。
「そんなオレも好きなんだろ?」
小悪魔のような微笑みを浮かべて。



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