無題 第2部 60


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家に帰り着いて、ドアのカギを開ける。
なぜ、電気が点いているのだろうと訝しむ緒方に、部屋の奥から声がかけられた。
「おかえりなさい。」
緒方は一瞬自分の耳を疑った。
そして足早に声のする方―寝室へと向かう。
そこには既にバスローブ姿の寛いだ様子でグラスを手にしたアキラがいた。
驚いている様子の緒方を見て、アキラはにっこりと微笑んで言った。
「合鍵をくれたのはあなたでしょう?それとも待っていたらいけなかった?」
今までは合鍵の存在など忘れたように、律義にインターフォンで緒方を呼び出し、エントランスの
オートロックと玄関のカギを開けさせていたくせに、なぜ今日に限って室内で待っているんだ?
だが緒方は眼鏡を外してサイドテーブルに置くと、別の質問を口にした。
「何を飲んでいたんだ?」
アキラは質問には答えずにグラスに残っていた透明な液体を口にした。
そしてグラスをサイドテーブルに置き、手を伸ばして緒方の顔を引き寄せた。
緒方の口の中でにジンの苦みと複雑な香りが広がる。
そのままアキラの舌が緒方の口腔内に忍び込んできた。
舌で緒方を探りながら、手は緒方のネクタイを緩め、シャツのボタンに手をかける。
その手を緒方が制した。

なぜやめるの?と言うようにアキラの目が緒方を覗き込む。
「子供のくせに、よくこんな強い酒を平気で飲むな。」
「そう…?美味しかったけど。」
見上げる瞳がアルコールのせいか潤んで艶っぽい。
「そう急かすな。オレは帰ってきたばかりなんだぞ?」
「ダメ。ボクはずっと待っていたんだから。」



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