落日 60


(60)
日の落ちる前にここにやっと辿り着いたという都人が、近頃の都の噂話をしている。
「帝の囲碁指南役が代わられたという話を聞きましたが…」
何気ないふうを装ってそのように話を向けてみたが、彼はそのような話は知らぬと言った。
「そうですか。」
噂にもならぬほどの事だったろうか。いや、宮中に参内するような貴族でなければそこまで細かな
事など知らぬのも当然なのかもしれない。
最後に見たあの人の、全てを悟りきったような静かな笑顔を思い出す。
都からここを目指して歩いている途中で、不意に足を止めてしまった事があった。何かもわからず、
ただ心がざわめいて、ここを離れてはいけない、戻らなければならないという衝動に駆られた。警護
の者さえいなければ、自分は勅命など投げ捨てて都を目指して走り出していただろう。
けれどそれは許されず、今、自分はここにこうして一人いる。
きっとその時に逝ってしまったのであろう人を思い、そしてまた、残された人を思う。
彼はどうしているだろう。最後に会えたのだろうか。会えなければ会えなかった事に、会ってしまえば
引き止めることもできなかった事に、きっと彼は苦しんでいる。
自分は何もできずとも、傍にいたかった。共に苦しみを分かち合いたかった。



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