失着点・龍界編 60 - 61


(60)
三谷は、ドアのところで倒れている見張りのポケットを探り、
中から何かを取り出していた。
「お前裏切ったな!こんなことして自分がどうなるか分かって…」
緒方と揉み合っていた男も三谷に向かって怒鳴る。緒方がその男に足払いを
食らわせ、床に投げ下ろし、さらにみぞおちに肘鉄を数回入れるとその男も
動かなくなった。
「三谷君、頼む」
アキラに駆け寄りたいのはヒカルと同じだったが緒方はそう三谷に声をかけて
残る一人、部屋の奥にいる沢淵と睨み合った。沢淵はこの騒ぎの中でも
ある意味待ち構えていたように余裕のある笑みを浮かべていた。
「これはようこそ、緒方先生。」
緒方は無言で眼鏡を外して床に放り投げいつもに増して鋭い目付きで
沢淵と対峙した。
ヒカルは何とか椅子から逃れ倒れているアキラの所に行こうともがいていた。
後ろ手に縛られたヒカルの手首のところの皮膚が裂けて血が滲んでいた。
すると急にフッとその両手が自由になった。後ろを振り返ると三谷が
立っていた。ヒカルは何か言おうとしたが今はアキラの方が心配だった。
口からタオルを外し、アキラに駆け寄るとヒカルは自分のシャツを脱いで
アキラにかぶせ、そっと抱き起こした。
だがアキラはピクリとも動かなかった。
「…塔矢…?」
壁に打ちつけられた所の皮膚が裂けてアキラの額の横側から一筋の血が
流れていた。その血の色とは対照的に、唇は青ざめ、ひどく顔色が
白っぽく感じた。目も閉ざされたまま開かなかった。


(61)
緒方は碁盤のある和室で沢淵と睨み合い互いに間合いを取り合う。
それぞれが相手にある程度心得があることを見越しての事だった。
緒方は心の底から怒りに燃えた形相で見据え、
沢淵は対照的にこの状況を楽しむように不敵な笑みを浮かべていた。
「…こちらでの勝負は、負けませんよ…」
沢淵は両手を構え上げ、再びニヤリと笑った。

ヒカルは体が小刻みに震えて来るのを必死で堪えてアキラの体を抱き締めた。
「塔矢…!?」
こういう場合揺すって良いものかどうか分からず、とにかく
肩を抱いて声をかけ続けた。
「塔矢!?…塔矢ア!!」
和谷と伊角が息を飲んで心配そうに見つめる。
「と…お…」
ヒカルの涙がポタポタとアキラの頬に落ちて流れていった。
塔矢に何かあったら、そう考えただけでヒカルの周囲から全ての
ものが色を失って消えて行く。ヒカルは地面を失うような目眩を感じた。
その時睫が微かに揺れた。そして静かにアキラが目を開けた。
「…進…藤…、」
「…塔矢ア…!!」
止まらない涙が伝う頬をヒカルはアキラの頬に押し付けた。
アキラの細い体を力一杯抱き締めた。
緒方は横目でヒカルとアキラの無事を確認し間合いを詰めた。



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