初めての体験 60 - 62


(60)
 緒方が、ゆっくりとヒカルを揺さぶった。ヒカルは片足を緒方の肩に乗せられ、
もう片方も床に届かず、ぶらぶらと揺れている。
「ひぁ……!あっ…あん…」
 緒方が動く度、濡れた服が体にこすれた。それが敏感になった体に新たな快感を与えた。
「あ…ふぅ…」
緒方の動きが激しくなり、ヒカルは彼の首にしがみついた。
「あぁ…せん…せ…ん…あ…あん…いい…」
ヒカルの喘ぎ声に煽られて、緒方の動きも一層激しくなる。
「し…進藤…!」
「せん…せい…もっと…あぅん…」

「あぁ───────!」
「くっ!」

 浴室にシャワーの流れる音だけが、響いた。



 「先生、風呂上がりの一杯やらないの?」
ヒカルの頭をタオルでゴシゴシ拭いている緒方に、ヒカルは訊ねた。
「まだ…昼前だからな…それに…」
緒方は口ごもった。夕べのことが頭を過ぎった。ヒカルの言うことが本当だとしたら、
当分禁酒をするべきだろう。記憶がなくなるまで飲むなど初めてだった。
「嘘だよ。」


(61)
 「え…?」
緒方がよく聞こえなかったと言うように聞き返した。ヒカルは悪戯っぽく笑って
もう一度言った。
「嘘だよ。先生が酔って絡んだなんてさ。」
「な…っ。」
緒方が言い返そうとするのを遮って、ヒカルは続けた。
「だって、せっかく遊びに行ったのに、『勝手に一人で遊んでいろ』って
 先生寝ちゃうんだもん。 腹立ち紛れにその辺のもんに八つ当たりしてたら、
 缶ビールが転がっててさ。オレも飲んでやるって開けたら…。ビューって…。」
緒方は絶句した。とんでもない奴だ。だが、そいつを招き入れたのは酔っぱらった自分だ。
しかも…こんな関係になってしまった…。
「悪いと思ったからちゃんと掃除したんだよ。ちょっと悪戯しただけだよ。」
ヒカルは懸命にいいわけをする。
『やっぱり…禁酒した方がいいかもしれない…』と緒方は頭を抱えた。
 「…怒ってる?」
ヒカルが、恐る恐る緒方の顔を覗き込んだ。黒い大きな瞳が小動物をイメージさせる。
「いや…」
緒方はそれだけしか言えなかった。無意識にヒカルから視線をそらしてしまった。
「良かったぁ。」
 無邪気に喜ぶヒカルを前に、奇妙な感情が湧いてくるのを緒方は感じた。
『もしかして…オレはこいつに填められたのか…?』

「だってオレ、どーしても先生と、してみたかったんだもん。」
ヒカルが、いつも肌身離さず持っている手帳を抱きしめながら言った。
 緒方精次……十段・碁聖二冠ホルダー……
――――初段の進藤ヒカルに敗北した瞬間だった。

<終>


(62)
 「ん〜〜〜〜〜!」
ヒカルは、呻いた。身に付けているものは、靴下のみ。その上、両手を前でガムテープで
ぐるぐるに縛られている。足は縛られてはいないが、この姿では逃げるに逃げられない。

―――――――チクショウ!!こんなことなら声なんか掛けなきゃ良かった!!
ヒカルの頬を大粒の涙が流れ落ちた。
 男の舌が、ヒカルの涙を舐めあげた。ざらざらとしたその感触と、これから起こることへの
恐怖からヒカルは身震いした。
「ひ…卑怯だぞ…!騙すなんて…!」
ヒカルは、男を睨み付けながら、叫んだ。だが、声を震わせての精一杯の強がりは、
可愛らしく、却って、男の加虐心を煽った。
「騙してなんかいないよ。本当に気分が悪かったんだよ。」
男がニヤニヤと笑いながら、ヒカルに言った。


 ヒカルが対局を終え、棋院から出てきたとき、道の端に蹲っている人影を見た。電柱に
寄りかかるようにして、呻いていた。あまりに苦しそうなその姿に、ヒカルはつい声を
かけてしまった。
「あの…大丈夫ですか?」
そう言いながら、肩に手を掛けた。
突然、強く腕を掴まれた。ヒカルは驚いて、手を引こうとしたが、あまりの力にヒカルは
男の前によろめいた。
 文句を言おうと顔を上げた。男の顔が目にはいる。「あっ」と、開いた口から、悲鳴が漏れた。
いや、実際には声を出すことは出来なかった。男の大きな手がヒカルの口を塞いだからだ。
そのまま、路肩に止めてあった車に引きずり込まれた。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!