失着点・龍界編 61
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緒方は碁盤のある和室で沢淵と睨み合い互いに間合いを取り合う。
それぞれが相手にある程度心得があることを見越しての事だった。
緒方は心の底から怒りに燃えた形相で見据え、
沢淵は対照的にこの状況を楽しむように不敵な笑みを浮かべていた。
「…こちらでの勝負は、負けませんよ…」
沢淵は両手を構え上げ、再びニヤリと笑った。
ヒカルは体が小刻みに震えて来るのを必死で堪えてアキラの体を抱き締めた。
「塔矢…!?」
こういう場合揺すって良いものかどうか分からず、とにかく
肩を抱いて声をかけ続けた。
「塔矢!?…塔矢ア!!」
和谷と伊角が息を飲んで心配そうに見つめる。
「と…お…」
ヒカルの涙がポタポタとアキラの頬に落ちて流れていった。
塔矢に何かあったら、そう考えただけでヒカルの周囲から全ての
ものが色を失って消えて行く。ヒカルは地面を失うような目眩を感じた。
その時睫が微かに揺れた。そして静かにアキラが目を開けた。
「…進…藤…、」
「…塔矢ア…!!」
止まらない涙が伝う頬をヒカルはアキラの頬に押し付けた。
アキラの細い体を力一杯抱き締めた。
緒方は横目でヒカルとアキラの無事を確認し間合いを詰めた。
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